アマチュアのキム、歴史に名を刻むチャンス
マイケル・キムは15番のグリーンに立っていた。徐々に夕方の気配を帯びてきた空がメリオンGCを覆う中、キムはバーディパットを待っていた。リーダーボードを見上げた彼が、微笑んだ。
「僕がリーダーボードを何度も見ていたのは、自分の順位を確認する為ではありません。自分の名前がミケルソン、ドナルド、シュワルツェルらと並んでいるのが嬉しかったからです」と、カリフォルニア大学三年に在籍中の20歳のキムは眼を見開いて語った。「ただただ素晴らしい気分でした」。やがてバーディパットを決めた彼は、第113回の全米オープンでトップと2打差の3位タイに浮上した。
キムはジム・シモンズの名前さえ聞いた事がなかった。
ウェーク・フォーレスト大学の三年だったシモンズは、1971年の全米オープンの最終日をトップで迎えた。偶然にも、その時の舞台もメリオンGCだった。
100年前、フランシス・ウィメットがアマチュア選手として初めて全米オープンを制した。
そして今、キムはシモンズさえ達成できなかった偉業をやり遂げようとしている。
過去に、全米オープンでアマチュアが優勝したのは7度ある(うち4度はボビー・ジョーンズ)。そして1933年にイリノイ州ノースショアCCで開催された大会で、ジョニー・グッドマンが優勝して以来、アマチュア選手は優勝から遠ざかっている。
コースの両脇に生い茂るラフ。それはメリオンGCでも同じ事だ。厳しい現実が、程なくキムを現実の世界に引き戻した。
全米の大学生ゴルファーのトップに与えられるジャック・ニクラス賞を受賞したキムは、16番のティショットを左に引っかけてしまい、ラフに捕まったこのホールでボギーを叩いてしまった。
登録上は150ポンド(約68kg)だが、ゴルフスパイクと同じ位の重さにしか見えない華奢な彼は、17番でダブルボギー、そして最終18番でもボギーを叩いて崩れてしまった。
たった3つのホールで、キムは“きっと歴史に名を刻む”から“歴史に残るかもしれない”に期待値を下げてしまった。バックナインで稼いだ6ホールで4バーディの貯金を一気に崩してしまったのだ。
3日目のキムは1オーバーの「71」でホールアウト。単独トップのフィル・ミケルソンから5打差の10位タイで最終ラウンドを迎える。
「最後の数ホールは、ちょっと緊張してしまいました」と、全米オープンセクショナル予選で本戦への出場権を手にしたキムは認めた。「もしかしたら、というシナリオを考えてしまいました。勝ったらどうしよう、こうしたらどうしよう。切り替えようとしましたが、次のホール(16番)で最悪のティショットを打ってしまいました」。
それでもキムは、今週の初めの時点では誰もが予想しえなかった偉業を成し遂げる可能性が残っている。タイガー・ウッズに勝つことだ。
「タイガーは、ゴルフを始めてからずっと私のアイドルです」と、キム。キムのプロフィールによると、彼のお気に入りのゴルフ映画は“ハッピーギルモア”だそうだ。映画の主人公も、今週のキム同様、さほど期待されていないゴルファーだったという。