2013年 フェデックス セントジュード クラシック

クーチャー、かつての苦闘は過去の記憶に

2013/06/05 16:21
シーズン2勝目を果たしたマット・クーチャー(Getty Images)

これまで運と名声に縁のなかったマット・クーチャーは今になってその両方を手にしそうだ。このような事は、クーチャーのように自分の達成可能なゴールを定め、辛抱強く忍耐力のある選手に起こりえる事だ。クーチャーはプロになってしばらくの間、調子の善し悪しに関わらずバランスよくプレーできる選手だったと言える。

34歳と年齢的にも熟した時期を過ごすクーチャーは、先週のザ・メモリアルトーナメントを276打の12アンダーで終え、2位に2打差での優勝を飾った後、ジャック・ニクラスの横に座っていた。

クーチャーにとって、先週の優勝は今シーズン自身2度目の優勝で、プロに転向して6度目、過去5年間で5度目の優勝となった。そして、世界ランキングにて、自身最高となる4位にランク付けされる事となった。何せ、今の彼は自分がどのようにプレーをし、どうやって今の自分がいるのかを自覚しているように見える。

思い起こせば、プロに転向して2年目となった2002年のホンダ・クラシックでの優勝がクーチャーの米国ツアー初優勝だった。当時のクーチャーは、1997年のアマチュア・チャンピオン、1999年のフレッド・ハスキン賞受賞、そしてジョージア工科大でのオール・アメリカン選出、そしてアマチュアで出場した1998年のマスターズと全米オープンでローアマチュアになるなど、輝かしい栄光を手にしたクーチャーは、長身にきらめく笑顔で”期待の星”という将来を有望視された23歳の青年だった。

その予感は2002年のホンダ・クラシックでのタイーガー・ウッズを押しのけての優勝で現実身が帯びる事となる。当時、ウッズは既に米国ツアーで29勝、4大大会制覇という圧倒的な強さを兼ね備えていたが、アマチュア選手だったクーチャーは臆する事なくウッズとの接戦を物にしたのだ。

こうして、瞬く間に注目と賞讃を浴びたクーチャーだったが、その後はプレッシャーに苦しむ事となった。その結果、彼の自身2度目の優勝には8年もの月日を費やすこととなった。そして2005年シーズン後には、ツアー参加資格を失いWeb.comツアーへと追いやられる事となった。

しかし、その当時の事をクーチャーが忘れる事はなかった。ミュアフィールドでの強風と球足の早いグリーンという難しい状況を物ともせず、勝てなかった昔を思い起こさせるようなミスもなく自分のプレーを続け、いとも簡単にこの1勝を飾ったのだ。

どちらかと言うと、クーチャーにとっては当時1位にランク付けされていたウッズに続く2位にランクインした直後の2006年のシーズンの修士を取るかのような時期を思い出す方が、幾分気が楽だったのだ。

「私にはその過去が気になるような事はありません」とクーチャーは語った。「他の選手の中には、そのような過去を恥じる選手もいます。それが邪魔をする事も有り得ます。そして、そのままツアーに戻れない選手もいるのです。しかし、私はこのツアーでプレーすべき選手だと思っています。Web.comツアーでも、自分のプレーを心懸けましたし、こうして戻って来ると信じていました。今振り返れば、それによって多くの事に気付く事ができたと思います」。

大きな変化は、コーチであるクリス・オコーネルの勧めで習得した安定したスイングにある。こうして安定感を増したクーチャーのスイングは、クーチャーを他選手よりも堅実にボールの真芯を打てる選手へと変えていった。

その堅実性を勝利に繋げるには、2007年のツアー復帰から2009年のターニング・ストーン・リゾート選手権での優勝までという2年の月日を費やしたのだ。その結果、2007年までは「70.70」としていたラウンド平均打数を約0.5打も改善し、ツアーでのランクを自身最高の74位まで押し上げる事となった。

こうした好調を維持している時にも、クーチャーはパターの長さを本来の長さより若干長めの物に変える事により、左腕を回転させるというゴルフの基本に忠実な打ち方に変える等の工夫をこなした。そして、2009年から2010年のシーズンでパットのスコア貢献率をツアー64位から10位、そして現在でも14位を維持するという成果を得ることとなった。

こうして2010年の分岐点を迎えるまでは毎年のように全体的な向上をし続け、1ラウンドの平均打を「69.61」まで伸ばし、ツアーでのヴァードン・トロフィーやバイロン・ネルソン賞を受賞する程となった。そして、バークレイでの優勝や、FedExカップでの2位入賞による賞金王となった。

「今では、ボールの芯をしっかり捉える事ができるようになりました」とクーチャーは語った。「こうして自分が風のある日でも、自分が常にボールをコントロールできるという事は強みだと思います」。

先週の大会では、同じように芯を捉え始め、その言葉を象徴するかのようなプレーを続けた。そして、パーオン率 75%で1位、パットのスコア貢献率で2位という、どの大会でも重要な要素で好成績を残したのだ。

そして今では、4日間を通して常に自分の名前をスコアボードに載せたいと願っていたかつての目標を超越するところまで漕ぎ着けた。以前の彼は、ウッズやアーニー・エルスのようなゴルフは自分にはできないと思っていた選手だった。

「今の自分は、昔は不可能だと思っていたようなゴルフが常にできるようになりました。アイアンで高く打ち上げる事もできますし、ウェッジで低いボールを転がす事もできます。自分のコントロールは強みですし、ちょうど良く競える程の距離感があると思います」。しかし、彼は自身のプレーに満足しているわけではない。

そして今では、メリオンで開催される全米オープンでウッズと対等に戦える選手と見られる程になった。全米オープンを控え、ニクラスから知識を得たクーチャーは、今日にもメリオンへと移動し、コースへの慣れや、勝利のみに集中できるように備える事となっている。

「メリオンではチャンスがあると思っています」とクーチャーは語った。そして、メジャー大会では自身最高の3位タイ終えた去年のマスターズを思い返すように、こう付け加えた。「マスターズの日曜日に良いプレーができた事で、今の自分に自信を持つ事ができました」

「選手というのは、リラックスすればする程、自分の力を発揮するものです。しかし、メジャー大会で良いプレーをしたという経験は、その状況が再び訪れなければ生かす事もできません」。その自信は、過去5年間の成績からも証明されている。そして、クーチャーの冷静な自己分析こそ、あの7年間の苦労に先立つ証拠なのだ。マット・クーチャーの見通しは、彼の将来のように今までで1番の輝きを放っている。

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