最後に魔女が微笑んだ ~中野義昌カメラマン「マスターズ」紀行(7)
2019/04/15 16:19
はじめてのマスターズ取材
普段のゴルフトーナメントでは、カメラマンはロープサイドを思うままに出入りしながら、撮影を進めていく。しかし「マスターズ」は例外で、ロープの中には入れない。多くのパトロンに紛れながら、まるで盗撮するかのように、わずかなすき間からレンズをのぞかせて撮影する。
特にタイガー・ウッズら人気選手となると、思ったところから撮影するのはほぼ不可能。人垣をかき分ける必要がある。ところが、「撮る場所がないなぁ」と困った顔でウロウロしていると、「前に行って撮りなよ。良い写真撮れよ!」なんて言って、場所を譲ってくれるパトロンがたくさんいる。チケットをやっとの思いで手に入れて来たら、“元を取ろう”なんて必死になりそうなものだが、マスターズのホスピタリティに接していると、パトロンまで心が豊かになるのかと感心してしまう。
さて、最終日は折り畳みのイスを持って早朝に18番ホールの場所取りをした。どんな試合展開になるのかなんて分からないまま、まるでギャンブルのように、自分の運だけを信じて。そして最後のシーンで撮れたのがこの写真。私のようなカメラマンにも、オーガスタの魔女が最後に微笑んでくれたようで、溜まりきった疲れも一気に吹き飛んだのだった。