理想の1Wを求めて 小平智とプロギアの決断
◇米国男子◇ザ・ノーザントラスト◇リッジウッドCC(ニュージャージー州)◇7,385ヤード(パー71)
今季から米国ツアーに参戦した小平智と、用具契約を結ぶプロギアとの関係は2014年にはじまった。以降は日本ツアーで5勝を重ね、今年は初めて「マスターズ」への出場を実現させた。さらに4月の「RBCヘリテージ」制覇により目標としてきた米ツアーの出場権(2020年まで)を手にし、28歳のサクセスロードをともに歩んできた。
その小平が、前週のプレーオフ初戦「ザ・ノーザントラスト」2日目に、契約後初めて他メーカーの1Wを投入した。昨年10月に、16年初旬から使用する「RS ドライバー F」のフェースが割れて以降、代わりとなる1W探しが難航。日米で優勝を重ねても、得意クラブに違和感を覚えながらシーズンを進めてきた。大会開幕前には複数のメーカーから1Wを取り寄せてテストを行う姿が見られ、初めてのポストシーズンを前に決断を迫られた。
契約当初から小平を担当し、米ツアーでもサポート役を続ける中村好秀氏によれば、常に小平は“やさしく打てる1Wヘッド”を望んできたという。「構えたときに真っすぐに見えて、ボールを高く上げやすく、より簡単にフェアウェイに置けて、フェードもドローも打てる。それは昔から変わりません。そういう意味でのこだわりは強いと思います」(中村氏)。アドレス時にフェース面が見える“顔”が好みで、ロフト角は10度台のものを好む。男子プロには珍しい傾向といえる。
「要求としては、それほど難しいことを言われている認識はないんです」と中村氏は言う。小平しか扱えないような、オンリーワンの特性を求めているわけではない。ただただ、やさしく打てるクラブが欲しい。「だから逆に言うと、どこに特徴を持っていけばいいのかが難しいんです」と打ち明けた。
破損してからこれまで同一モデルのヘッドを30個以上もテストしてきたが、かつての感触とはひとつも一致しなかった。コンマゼロミリ単位の重心調整を施しても、いまだ満点の回答は得られていない。「重心距離で言えば0.2、0.3ミリの違いのものを10個。0.1ミリも変わらないものを5個作ったり。ロフト角は10.6、10.7、10.8、10.9度などを用意しました」という。
小平はかつて、ヘッド内部に生まれた破片などを吸着する粘着剤(グルー)の量や、塗布された位置により生まれる個体差まで気にかけていたが、「(粘着剤の影響による)微調整はあるかもしれませんが、ヘッドの持っている特性が大きいので、そんなに大きく変わるものではないと思います。そう感じてしまうのか、(周囲が)言ったことで感じてしまうのか。そこの答えは難しいところです」と私見を述べた。
これまでの試作品は陽の目を見てこなかったが、データの蓄積分だけ調整すべきポイントは絞られ、今後の開発に生きていくという強い自負はある。今回の他メーカー1Wの使用について中村氏は、その精度を高めるための意味合いも含まれていると説明した。
「プロからも“使ってみたい”という声が上がってきたので、今回は他社製品でどういう結果になるのかを試しています。次のモデルへの方向性がより明確になるし、それによって小平プロもプロギアのドライバーを使えて、結果を出せれば、お互いにとって良いことだと思っています」。そう話す中村氏はギャラリーロープの外から、小平が他メーカーの1Wから放つ弾道に鋭い視線を送り続けていた。(ニュージャージー州パラマス/塚田達也)