全英オープンの作り方/競技委員・山中博史のロイヤルリザムレポート<5>
英国ロイヤルリザム&セントアンズで行われた2012年の「全英オープン」に出場を果たした日本人選手は総勢8人。しかし、そのロープの内側でプレーヤーとともに、ボールの行方に冷静に目を凝らした一人の日本人がいる。日本ゴルフツアー機構(JGTO)の山中博史専務理事。かつて、青木功のキャディを務め、ここ10年来、海外4大メジャーすべての試合で競技委員を務めている。トーナメントにおいて、欠くことのできない存在であるレフリー。それが“世界一”を決めるビッグイベントであれば重要度は一層高くなる。今回は大会を通じ、レフリーとしての立場、そして日本ツアーの代表としての立場から、全英の戦いをレポートしていただく。(GDO編集部)
「ジョン・デーリーとトム・ワトソン、人気者の2人の組に帯同した最終日。早朝、午前7時30分のスタートにも関わらず多くのギャラリーが声援を送っていました。今日は3日目までに比べて風が強く、グリーンの表面が硬くなりスピードも出ました。アンダーパーの選手がどんどん少なくなったのは、やはり風の影響でバンカーに入ることが多くなったからでしょう。全英で最も多かったバンカーをとにかく避けていく、という戦前の予想通りの試合運びが大切となりました。
さて、今年は8人が挑戦した日本勢ですが、決勝ラウンドに進んだのは武藤俊憲選手と藤本佳則選手の2人。私自身『50%以上の選手には予選を通って欲しい』という期待もあったので残念な思いです。4日間を戦った両選手も、決勝ラウンドでは息苦しい戦いに。トップ10に入れる可能性のある位置などであれば、モチベーションも高く保てるものですが、やはりそうでないと72ホール、体力、気力を持って戦うのは難しい。2日目を終えてから、3日目、4日目と一気に踏ん張りが利かなくなるのもメジャーの舞台です。
このロイヤルリザム&セントアンズで青木さんは1979年、88年と7位に入りました。現在の選手たちとの違いは何かと聞かれれば、私は体力にあると答えます。今の選手の技術が、彼らに劣るとは決して思いません。しかしながらジャンボさん、中嶋さんもそうでしたが、人並みはずれた体力が、気力を支えていたのではないでしょうか。
メジャーのコースが難しいのは日本人選手にとってだけではなく、普段から海外でプレーする誰にとっても同じです。その中で自分の気持ちを逸らすことなく、一打を大切にプレーできるかは紙一重のところ。昨日の藤本選手は、後半に頑張りました。集中力を最後まで保てたところもあります。
日本人選手が、海外で活躍するためには、コース内でゴルフ以外のことに気を散らさないようにすることにあるとも思います。時差、言葉、食事などをものともせず、ゴルフに集中できることが当たり前であること。選手には反論されるかもしれませんが、100%を出し切れる環境づくりも重要です。たとえ言葉ができなくても、キャディとたった2人で、現地で生活し、がむしゃらにやっている、そんな選手が出てくることも希望しています。
青木さんの場合は、奥様が語学に堪能でした。ただ、本人も自分からどんどん外国人選手たちに話しかけ、その中に溶け込んでいこうとしていたのを思い出します。そういった人間は、向こうの選手たちからも仲間に引き入れようとされるもの。若い選手たちが、国際的に活躍しようと思うのであれば、彼らの輪に自分から近づいていくことも一つの方法です。
さて、私の次の国際試合での仕事は2週間後の『WGC ブリヂストンインビテーショナル』になります。日本からは谷口徹、武藤俊憲、藤本佳則、石川遼の4人が出場予定。4日間予選落ちが無い大会ですので、思い切ったプレーをして欲しく思います。去年は石川が優勝争いを見せました。そういった活躍があれば、日本の方々の興味も倍増するはず。“出るだけ”ではない、我々にとっても張り合いのあるような試合を期待します。