パリ五輪は“TOKYO”のリベンジなのか?/畑岡奈紗 単独インタビュー(前編)
オリンピックイヤーとなる2024年、畑岡奈紗は日本勢の世界ランキング1番手(20日時点で17位)として米ツアー8シーズン目をスタートした。悲願だった「東京五輪」でのメダル獲得を逃してから2年半が経過。8月「パリ五輪」に向けた日本代表争いの“本命”の思いに単独インタビューで迫った。(聞き手・構成/亀山泰宏)
“別物”かもしれない
9位に終わって喪失感でいっぱいになった霞ヶ関CCでの“借り”は、フランスのル・ゴルフナショナルで返せるものなのか――。
「『東京』が終わった後、どういう風に思っていたかは分からないですけど…」と言葉を選びながら続けた。「今は“別物”かもしれないですね」
2016年にアマチュアながら「日本女子オープン」を制し、プロ転向の会見で高らかに目標を掲げた。「海外メジャー優勝」、そして「東京五輪の金メダル」。それを成し遂げるために、18歳で海を渡った。かなえたい夢があるから、迷わなかった。
「確かに『東京』は特別だったかもしれないですね。母国開催で、米ツアーを目指すきっかけのひとつでもありました。新型コロナっていうイレギュラーなことも起きながら、やっぱり、特別だったと思います」
ツアーは五輪の予選?
「別物」と表現するパリ五輪は、あくまで大きな試合のひとつ。そう位置付けるのは、経験を踏まえたメンタルコントロールでもある。
「ずーっと、それを夢見てやってきた。だから、代表に入るか入らないかという時も意識しすぎて、すごく苦しかった。普段の(ツアーの)試合も大事で、おろそかにしちゃいけないのに、どこか頭の片隅には東京オリンピックがある。オリンピックに行くための“予選会”をずっとやっているみたいになってしまっていた」
21年を迎えた時は世界ランク7位。当時2番手の渋野日向子が13位、3番手の古江彩佳が16位で代表入りは濃厚と見られていた。「でも、実は自分ではそう思っていない感じでした」。日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)から毎週送られてくるランキング更新の通知が気になって仕方なかった。
「とにかく、勝ちたい」
6月「KPMG全米女子プロ選手権」まで続く選考過程は今回も同様。3年前はチェックを欠かさなかったメールだが、少なくとも昨年から見ていない。「今も届いているかもしれないけど…」。意識の外に置き、22日開幕のアジアシリーズ初戦「ホンダ LPGAタイランド」から本格化するシーズンの1試合1試合に全力を尽くそうとしている。
「とにかくもう、勝ちたいですね。春先にまず1勝したい。もちろん勝てば、(世界ランクの)ポイントもついてくる。最初からポイントのことを気にしすぎると、『勝つために何をするか?』が、意外とおろそかになっちゃうのかなって。もし出られたら、それが結果なのであって、(五輪のことは)そこから考えればいいかなって思います」
昨季は5度の最終日最終組を戦うも未勝利。7度のトップ10入りは18年(11試合)に次いで多く、22年と並ぶ数字だった。ハイレベルな安定感を示しても「やっぱり勝てていないと、結果はそれ(シーズン0勝)だけなので」。まず2季ぶりの優勝にフォーカスすることが5大メジャーでの戦い、そしてパリ五輪にもつながっていく。
「“勝ちグセ”じゃないですけど、それによってしか自信ってつけられないと思う。優勝争いをしたり、勝てるチャンスのある位置でのプレーを重ねていくのが大事じゃないかな。メジャーでも、いかに普段の試合と同じようにできるかというところを心掛けているので」
トレーナー候補に豪州人
9位だった1月の開幕2戦目「ドライブオン選手権」から、オーストラリア人のトレーナーと試験的にタッグを組んでいる。「久しぶりに肩回りが軽いなって感じがありました」。右肩の可動域が広い分、動きすぎて痛みが出るのが悩みでもあった。昨季はケア中心だったが、試合会場でもチューブトレーニングを行って適度な刺激を与える手法に好感触を得た。
「そこ(肩の痛み)が改善されてくれば、もっとボールに力は伝わると思うし、もっと飛距離も伸びると思う」。新たなアプローチも取り入れながら念頭に置くのは「スイングのこととかを考えず、ゲームに集中できる状態を試合までに作れるか」。開幕戦でショットに苦しんだ翌週の「ドライブオン選手権」はそれに近い感覚があったとうなずく。
「1週目は全然ダメだったけど、それから(2戦目までの)3日間で『これかな』と思うものがあった。1個、その週のキーポイントを決めてやれたら、そこに集中できる。ミスをした時に『これかな?』『あれかな?』っていろいろ考えちゃうと、次のホールもうまく行かなかったりする。そういうものを見つけていければ、1ホールずつクリアに回れる」
何より大切にするゲーム前の準備。昨季、それが揺らいでしまった試合がある。11位だった8月「AIG女子オープン」(全英女子)。ホールアウト後に瞳をうるませ、必死に感情をこらえた最終日の悔しさは、いまも鮮明に思い出せる。(後編に続く)