国内男子ツアー

野上貴夫がツアー初優勝!!/ウッドワンオープン広島

2005/07/11 09:00
野上貴夫

友人の、祈りが通じた。2位のディネッシュ・チャンドと1打差で迎えた18番。残り170ヤードの第2打は、グリーン左のラフ。そこからのアプローチは大きくショートした。ピンまで約4メートルの、パーパットが残ってしまった。
そのとき群集にまぎれ、両のこぶしを固く握り合わせて真剣に祈りをささげる人がいた。

大親友の宮里聖志だ(=写真中央)。

聖志のデビュー戦でたまたま同じ組で回って以来気が合って、何かと行動をともにしてきた。「親友というよりも、ライバル、というよりも・・・よき仕事仲間。そんな感じかな」(聖志)。

親友の宮里聖志が見守る中、優勝のかかった大事なパットを沈めた野上貴夫

その聖志は今週、予選落ちをしてとっくに広島を離れているはずだった。昨晩、電話で話したときも野上が「今どこにおるん?」と聞いたら、「どこでもええやろ」とそっけない返事が帰ってきた。
野上が3日目も首位を守った時点で最終日には応援のため、聖志は八本松に舞い戻るつもりにしていたが、そう言うと野上にプレッシャーがかかると思って、黙っていたのだ。

親友の祈りが通じた、というしかない。
いや、聖志の祈りだけではない。地元・福岡から駆けつけた大応援団。その中に、やっぱり野上に内緒でコースに駆けつけた妻・文香さんと2人の息子たちもいた。
同組で回った佐藤信人までもが、無事そのパーパットを決めることを願っていた。

アドレスに入る直前、練習日に聞いた聖志からのアドバイスを思い出す。
「構えるときに、屈みすぎている。もっと上体を起こしたほうがいい」。

それでもいつものくせでつい前屈みになってしまうのを防ぐため、ほとんど天を仰ぐような姿勢で、ぶ厚い胸板をグっと前に反らしてから打ったウィニングパット。
カップ手前1メートルに差し掛かったとき、早くも野上は両のこぶしを握っていた。
「ラインに乗って、入るのが確信できた」。
ど真ん中からボールが転がりこんだとき、弾け飛ぶように2歩、3歩とステップを踏んだ。
歓喜に舞い踊るように、くるくると身をひるがえした。

「鳥肌が立った。これまで味わったこともない感覚。緊張が解けたら、全身に震えが来た」。

興奮のまま、満員の観客席に思わず叫んでいた。
「ありがとう、ありがとうっ!」。
嬉しそうに駆け寄ってきた次男・大貴君を抱き上げて、いったんアテスト小屋に引き上げる通路のところで、肩を強く叩かれた。
「おめでとう!」と言った聖志の目が、赤く濡れているのを見たとたん、自分も涙があふれてきた。

昨年12月。アジア沖縄オープンで、聖志が初優勝をあげた。
その直前まで、一緒に今年の出場優先順位を決めるファイナルQTに参戦し、ほとんど「兄弟みたいに」練習日を入れて長丁場の10日間、寝食をともにしたばかりだった。
それから数日もたたないうちに、吉報を聞いた。
「嬉しくて、鳥肌が立った」(野上)。と、同時に「俺もやってやろう、と」。
その約半年後の“記念の日”に、自分も念願の初優勝を手にすることができたのだ。