ツアープレーヤーたちの趣味<井戸木鴻樹>
先月の「長嶋茂雄 INVITATIONAL セガサミーカップ」で3日目に単独首位に立ち、優勝争いの末に2位につけ、2年ぶりのシード復活にほぼ当確ランプを灯したベテラン、井戸木鴻樹が一時期ハマっていたのがオオクワガタの収集だ。
フェアウェイキープ率1位は過去に5度。「ツアーいち曲げない男」が夏の練習ラウンドに限っては、ほとんどフェアウェイにいなかった?!“獲物"を求め、林に分け入り大きな木の幹をチェックしながら歩く。普段は苦痛なジョギングも、夏場は楽しみでならなかった。昆虫採集をかねて、嬉々として出かけて行ったものだ。
8センチ弱の大物を捕獲したこともあり、自宅には100匹を超えるクワガタを買っていた時期もある。「売ればけっこう儲かったかも」と笑うが実際には商売をしたことはなく、快く人に譲ったり、もっぱら趣味の域を出なかったが、当時はそれこそがゴルフの原動力でもあった。
収集を始めた翌年の2000年に、一度はシード復帰。「クワガタを励みに頑張っている。クワガタを見ていると、疲れも飛んでいく」と、そのとき41歳は少年のような笑みを浮かべていたものだ。しかし、2007年に家族に「家にアリが上がってくるからやめて」と言われ、泣く泣く手放したら皮肉にも、そのあと再びシード落ちの憂き目に。
不運も重なった。同年にはマッサージを受けた際に、整体師の力が強すぎて肋骨を骨折。シーズンを棒に振った。幸い特別保証制度が適用されて、翌年2008年の開幕から3試合で約53万円を稼げば賞金シードが与えられることにはなったのだが、その直前の2月にまた不幸が襲いかかった。
テレビの収録で訪れたマレーシアで、「美味しいビールを飲もうと思って」。空いた時間を利用して、汗をかきにジョギングに出た際に「穴ぼこ」に足を取られて大きく転倒。左足の甲を4カ所も骨折し、いざ3戦はすべて予選落ちでみすみすシードを逃してしまった。
20年来のつきあいという左手首の「手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)」も完治しておらず、昨年はまさにどん底……。大好きな銭湯で、「風呂に入ってる場合とちゃうやろ」と、遠慮のない地元ファンに叱責されたこともある。
「まあ、そらそうなんですけども・・・」と、口ごもりつつ「僕も風呂くらい入れさせてえな」と、ユーモアたっぷりに切り返したコテコテの関西人は、どんな境遇も笑って乗り越え、チャンピオンの藤田寛之に最後まで食らいつき、「まだまだ自分にもやれそうな気がする」と、若やいだ。
その姿に「格好良かった。思わず、応援したくなった」(宮本勝昌)と、他の選手たちも絶賛したいぶし銀のゴルフが、ツアーに帰ってくる。いまだにプロフィールの趣味の欄に「オオクワガタのブリーダー」と書き込む47歳は、クワガタの話しになると、目を輝かす。
マニアの間では“黒い宝石"とも呼ばれるオオクワガタ。その思いはゴルフに対するのとまったく同じで、「あと5年はレギュラーツアーでやりたい。僕にはこれしかないしね!」と、シニア入りも3年後に控えた今は、ゴルフ一筋。夢中で“白球"を追い続けている。