ツアープレーヤーたちの夢<鈴木亨>
その瞬間は、ふいに訪れた。先のオープンウィークに、知人とプライベートでゴルフを楽しんでいたときのことだった。迎えたパー3は、5番アイアンで打ったティショットがピンの手前6メートルで小さく弾み、ころころと転がってそのままカップに消えて、人生初の瞬間にしばし呆然と立ち尽くしたのだった。
43歳の鈴木がちょっぴり頬を染め、「プロとして、ちょっと恥ずかしいんだけど…」と、打ち明けたのは、そのちょうど2週間ほど前に行われたUBS日本ゴルフツアー選手権 宍戸ヒルズの2日目だった。
賞金100万円がかかった192ヤードの3番パー3は、あわやのところでボールはカップをそれて、悔しがった際に思わず“カミングアウト”。実は、9歳から34年のゴルフ人生で、一度もホールインワンを達成したことがなかったというのだ。それだけに、「なんとか入って欲しかったのに・・・!」と、地団駄を踏んでいたものだ。
本人も認めていたように、これは「プロには非常に珍しいこと」と言える。その翌週の日本プロの前日に、やはり人生初のホールインワンを達成した石川遼は、つい最近、韓国出身のS.K.ホとそれについて話したばかりだったそうで、「SKさんに聞いたら、僕はもう15回以上はしている、と。プライベートも合わせると、数え切れないほどだと言われて本当に羨ましく思ったばかりだったのに。その自分がこんなにすぐに達成できるとは思ってもいなかった」と打ち明けたものだが奇跡とは案外、そうやって普段着の顔をしてやって来るものなのかもしれない。
鈴木もやはりそんな感じで、「ホールインワンをするまでは、僕はゴルフをやめられないんですよ」というほど思いつめていた夢の瞬間も、いざ経験してみると「実際はあっけないものだった」と、振り返っている。
そして、だからこそまた次の欲も出て来るものなのかもしれない。人生初の瞬間を味わったら「次はぜひ、試合でやってみたくなった」と、鈴木は言う。
そしてもちろん優勝も。
実は、鈴木は6月16、17日に北海道の大雪山カントリークラブで行われた旭川オープンで、一昨年と2006年に続く大会3勝目を飾ったが、これは賞金ランキングとは対象外の地区競技だ。いまのツアーではただひとり、93年から一度も賞金ランキングによるシード権を落としていないが、プロのプライドを満たすには、まだ物足りない。
前回のツアー通算7勝目は、38歳のときだった。ホールインワンより何よりも、喉から手が出るほど欲しいのは、やっぱりあれから遠ざかったままの勝ち星だ。「今は優勝の快感を味わいたくて、ゴルフをしているようなもの」という鈴木。先週のミズノオープンよみうりクラシックでは、初日と2日目を丸山茂樹と石川遼と同組で回った。
予選ラウンドから詰めかけた大ギャラリー。40歳を超えてなお、その胸に夢を一杯詰め込んで、ティグラウンドに立っている。すでに最終日のような雰囲気に、「ああいう感じは本当に久しぶりで。スタートから緊張してしまって…」と、照れながら話す様子は17歳にも負けぬほど、若々しく初々しかった……!!