ゴルフの根底をくつがえしかねないミケルソン問題
全米オープンは近年、受難続きのメジャー大会と呼ばれています。
昨年は優勝スコア16アンダー(ブルックス・ケプカ)と、あまりに良い成績が出すぎてしまったことで、全米オープンらしからぬ事態と揶揄されました。一昨年は優勝したダスティン・ジョンソンの異例の罰打によるルーリングの問題が発覚。その前年はチェンバーズベイGCが開催コースとして適切でなかったと問題視される声が上がりました。そして今年、また新たな問題が発生してしまったのです。
3日目の13番、フィル・ミケルソンがパットを打った直後に、小走りでボールを追いかけ、動いている状態のままカップに向けて打ち返しました。ミケルソンの行為に対し、USGAはゴルフ規則14-5より2罰打を科しただけという処罰を下しました。
ミケルソンはその後の発言で、これまでも同行為のチャンスをうかがっていたと明かし、「ルールを戦略的に使っただけ」と発言しています。彼が主張する通り、ルール違反の行為として罰打を受けたことで、その後とやかく言われるものでもありません。彼の思索が良い悪いという前に、止まっているボールを打つというゴルフの根本を破っても、成立してしまうルールに問題があると思っています。
極端なことを言うと、パットを打った直後ボールに追いつき、カップに外れたと分かった時点で、ボールに触れてカップインさせる。アイスホッケーの要領でボールを操作してしまうことも許されてしまう。これはもはやパッティングの技術というより、瞬発力を問う別のスポーツとして、ゴルフの概念とはかけ離れてしまう行為だと思うのです。
結果的にこのホールだけで「+6」を要したミケルソン。大きなダメージを負ったことで擁護する声も上がっています。ですが、私の中ではやはり、フェアプレーを心がけて犯してしまった2罰打と、故意にルールを利用した2罰打が、同じ結果として許されてしまう部分に違和感を覚えます。
原因はいろいろ考えられますが、3日目の問題はUSGAが設定したピンポジションに起因することも否めません。「天気予報が予想外だった」と弁解したUSGA側。ただ、“天気予報はそもそも外れるもの”として考えていなかったことに問題はあったと考えられます。私も国内ツアーのセッティングに携わっている一員として、いろいろ自問自答している日々ですが、天気予報は外れるものとして、想定の範囲内でセッティングをしていくことが不可欠です。特に世界の頂点を決めるメジャー大会ではなおさらと思いました。
シネコック・ヒルズで行われた2004年の全米オープンでも、急遽全組のプレーの合間に、毎回水を撒くホールを作るなど、セッティングの問題が浮上したことがありました。それでも選手は同じセッティング、同じ条件で戦っているのだから、仕方ないと考える意見もあります。ですが今回も、そのときと同じようにグリーンが速すぎて、どのような戦略を練っても運がない限り転がり落ちてしまう。フェアさを欠いた状況になってしまったように見えました。
松山英樹選手が、3日目に4パットを2回喫していますが、そのどちらも4回のパットがミスというミスではないのに4パットとなっています。要因は、グリーンの速さを考慮せず過酷なピンポジションを設定してしまったこと。転げ落ちるボールは、技術を求められて失敗したものではなく、運による部分が大きくなってしまったと思えてしまう状況でした。ゴルフは「運も実力のうち」という部分は確かにありますが、あまりに運に偏ってしまうとナイスパットもミスパットも関係なく、運があるかないかで勝敗が決まる大会となり得てしまうものです。
全米オープンは、米男子ツアーの中では唯一のUSGA主催大会(そのほか全米女子、全米シニア、全米アマチュアゴルフ選手権などがある)。いつもツアーを執りしきっているPGAが主催した場合、また別の展開になっていたのでは、と思うのは私だけではない気がします。来季はペブルビーチで行われる全米オープン。USGAにはぜひ、過去を過去とせず、教訓に生かしてほしいと思いました。(解説・佐藤信人)
<ゴルフ規則>
【14-5】動いている球をプレーした場合
プレーヤーは、自分の球が動いている間はその球をストロークしてはならない。
規則14-5の違反の罰
ストロークプレーでは2打