ため息、悲鳴、そして歓声… 18番グリーンが生んだドラマ
「日本シリーズJTカップ」の舞台、東京よみうりカントリークラブの18番ホール(パー3)で、ことしもまた多くの筋書きのないドラマが生まれました。
18番ホールは年間を通しても1、2を争うほど、難度の高いショートホールといえます。227ydという距離の長さと、ティイングエリアからは逆光でターゲットが見えにくいロケーション。選手を悩ます最難関の傾斜グリーンが待ち受けます。難度の高さゆえに予想だにしない波乱や奇跡を、これまで何度も目の当たりにしてきました。
それゆえに試合展開としては最後まで見ごたえのあるものにはなりますが、選手側の立場を考えれば、一年の最後を締めくくるホールとして少し酷な気もしてきます。一年の最後は笑って終わりたいと誰もが願うもの。ナイスプレーで大勢のギャラリーを湧かせ、拍手喝采の中で終わらせたい。そのような気持ちを嘲笑うかのような難度の高いホール、それがこの18番ホールなのです。
このホールを攻略するには、実力の範囲を超えた運が必要となってきます。グリーンは全面傾斜で平らなところが少ないため、グリーンに落とせばボールが止まるか転がり落ちるかは、運任せとなってしまう部分があります。カップより上に着けたら最後。急激な下りパットは、もはや制御不能といえます。
過去には2013年に宮里優作選手が初優勝を飾った際、右ラフから劇的チップインを入れて腰を抜かした姿は、いまでも記憶に残る名シーンです。逆に昨年の堀川未来夢選手は、首位タイで迎えた最終ホールをダブルボギーとし、初優勝を逃しました。そしてことし、今平周吾選手が1mの下りパットを外し、ダブルボギーを喫して首位を明け渡しました。
今平選手がカップを外した瞬間、ギャラリー席から大きなため息が漏れました。グリーンを覆うように設置されたギャラリー席は、劇場型と呼ぶにふさわしく、ボールの行方に反応が返ってきます。この瞬間だけでなく、最終日の反応はため息と悲鳴ばかり。それもそのはず。18番は当日のホール難度No.1で、30選手中バーディ数は「0」。2人に1人はボギーという難度でした。
そのような状況下で、石川遼選手とブラッド・ケネディ選手(オーストラリア)のプレーオフ3ホール目に入る前、右手前に切っていたピン位置が右奥に移されました。このピン位置は2日目と似たところでした。2日目もまた同じようにバーディ数は「0」。この難しいピンポジションで、勝負を決めた石川遼選手のティショットが生まれたのです。ピン手前2mほどの位置は、これより手前に落ちれば下まで転がり落ちてしまう絶妙な場所でした。
ため息や悲鳴ばかりが続いた舞台が、この日初めて歓喜と拍手に変わったのはその直後のことです。ケネディ選手が2打目パットを寄せきれず、石川選手はパーで上がっても有利の状況で、見事バーディパットを沈めたのです。まさにドラマのエンディングにふさわしい締め方といえるのではないでしょうか。
大歓声の中で両手を挙げた主役の後ろ姿を見ながら感じたことは、選手らに悲劇も強いる名物ホールは、劇的な幕切れも用意してくれるということ。日没を間近に控えた陰りの中で、華やぐギャラリーの光景を演出した18番ホールに改めて感服しました。(解説・佐藤信人)