「結婚して調子悪い」懸念を一蹴!アン・ソンジュ、夫婦でつかんだファーストV
ウィニングパットがカップを鳴らすと、わずかな静寂の後、夫婦は抱き合って喜びをかみしめた。静岡県の伊豆大仁カントリークラブで開催された「センチュリー21レディス」の最終日、首位で出たアン・ソンジュ(韓国)が、2バーディノーボギーの「70」で逃げ切り、今季初勝利、ツアー通算19勝目を飾った。
後続が猛追を見せた最終日、2番で約1.5mのチャンスを沈めてバーディを先行させたが、その後15番までパーを重ねて、迫る同郷のぺ・ヒキョン(韓国)に並ばれて終盤を迎えた。スコアが動いたのは、初日、2日目にいずれもバーディを奪った16番(パー5)。果敢に2オンを狙っていったが、残り223ydの第2打はグリーン左奥のラフへとこぼした。だがアプローチをピン2mにつけて「期待どおり」のバーディで頭ひとつ抜け出し、1打差で逃げ切った。
前週の「サマンサタバサ・レディース」から2週連続で、夫のキム・ソンホさん(29)が、キャディとしてバッグを担いだ。
きっかけはオープンウィークとなった7月上旬、北海道で行われた男子ツアーの「長嶋茂雄 INVITATIONAL セガサミーカップ」を夫婦で観戦した夜の食事中のことだった。未勝利が続く今季「結婚してからゴルフの調子が悪くなった」という声を、夫婦がともにプレッシャーと感じていたころだ。ソンホさんは「僕は君のキャディをして、君を助けたい」と切り出した。
夫がひねり出したアイデアに、アンは感謝の気持ちと感動で胸がいっぱいになったというが、うっかり口をついた言葉は違った。「気持ちは本当にありがたいと思ったんですけど、つい『あなたより私の方がゴルフは上手だから大丈夫よ』って言っちゃったんです」。
ともすれば夫婦げんかの火種になりかねない“禁句”だったが、そこは「話し合って、オープンウィーク明けの試合勘を取り戻すため、2週間だけキャディをお願いすることになった」。
あまりの暑さと、慣れない仕事に途中で言い争いもした今週の3日間だったが、アンは「わたしにとっても、夫にとっても本当に意味のある優勝だった」と語る。優勝の瞬間、大きなガッツポーズを作るわけでもなく、夫婦で見つめ合った時間は、結婚までの道のりや、想い出、心からの「おつかれさま」という労いの言葉に代わるものだった。
ところで、優勝すれば、選手はキャディにボーナスをふるまうものだが…。「夫へのボーナス?(賞金)全額くれって言われたけど、韓国でマイホームを購入するために、取っておきます。大丈夫、口座の暗証番号はわたししか知らないから」。昨季賞金女王の財布のひもは固いようだ。(静岡県伊豆の国市/糸井順子)