プレーオフ4戦4勝!イ・ボミを勝たせた大胆戦略
長野県で行われた「NEC軽井沢72ゴルフトーナメント」で、3つ巴のプレーオフを制して今季3勝目を挙げたイ・ボミ(韓国)。プレーオフは昨年9月の「日本女子プロゴルフ選手権大会コニカミノルタ杯」以来で、国内ツアーでは通算4度目だったが、これで4戦全勝だ。苦手とする選手も多い中で驚異の勝負強さ。この日のプレーオフ勝ちは戦略に基づいたものだった。
通算11アンダーの単独首位で最終日を迎えたイは、スタートの1番でボギーをたたき、大混戦を自ら招いてしまった。バーディなしの1ボギーだった前半で後続に吸収され、一時は2打差の4位まで後退。しかし、後半でしっかり立て直して追いすがり、通算13アンダーで首位に並んで最終18番を迎えた。
イと並ぶスコアで菊地絵理香が先にホールアウトしており、最終18番は最低でもパーが必要だった。やはり同じスコアだった同組の大山志保がバーディならば負けることにはなるが、イとキャディの清水重憲氏は「パー狙い」で合意し、グリーンを狙う2打目で左サイドに切られたピンは狙わず、センターを狙ったという。
伏線は、直前16番、17番のパーの内容にあった。「短いバーディパットを外して流れが良くなかったんです。ミスをしてボギーにしたら終わってしまう。彼女がプレーオフに強いことも分かっていたので、54ホール目(最終日の最終ホール)はピンを狙いませんでした」(清水キャディ)。事実上のマッチプレー状態ではあったが、正規の18ホールは流れもあるストロークプレー。イ自身も意味を理解し、狙い通りピンの右手前6メートルに確実に乗せた。
結果的に、2打目をイの後で打った大山は少なからぬプレッシャーも感じてか、グリーンを外してともにパー。菊地を含めた3人によるプレーオフに突入した。
イとのコンビの前に谷口徹や上田桃子らのバッグを担ぎ、通算で24勝をサポートしてきた清水キャディは語る。「あの場面は、パーでいいんです。バーディのチャンスもあったけど、まずはプレーオフに残ることが一番大事なので。そして、プレーオフに入ったら、1ホール目から攻め方を変えます」。
果たして…3つ巴プレーオフで臨む18番の2打目。同じグリーン左のピンに対して、イは狭いピン左サイドを攻めて、正規の最終ホールで乗せた位置とはピンを挟んで真逆のライン3メートルにつけた。清水キャディは正規の18番をプレーした際、グリーンの状態、ピンまでの傾斜を細かくチェックし、狙いをアドバイスしていた。プレーオフに入って、はっきりとギアチェンジをしたイが、それまでの流れを断ち切り、ただ1人バーディを奪って1ホール目で決着をつけたのだった。
イは「プレーオフ全勝の秘訣ですか…キャディさんのおかげです(笑)」と笑った。正規の18番で見せた割り切りは、キャディと相談して決めた通りのショット、そして勝負どころのパッティングを決める技術を持っていればこそできる大胆なジャッジでもあった。1+1が2以上になることもある、プロフェッショナルなコンビネーションが垣間見えた。(長野県軽井沢町/本橋英治)