体調不良の吉田弓美子「なんか楽しくなってきちゃって」首位
静岡県の葛城GC山名コースで開催中の国内女子ツアー「ヤマハレディースオープン葛城」3日目。2位タイから出た吉田弓美子が、体調不良に苦しみながらも3バーディ、2ボギーの「71」をマークして通算6アンダーで単独首位に立った。
春はラウンド中もマスクを手放せない重度の花粉症。この日はそれに端を発した嘔吐感にも襲われていた。「気持ち悪くて…フラッとしてしまう」。スタート前のテレビインタビューの時から、吉田の顔色は青白く曇る。3メートルを沈めた1番から2連続バーディを決め、早々に首位に立っても「最初の4、5ホールは棄権しようかと考えていた」と、気持ちはクラブハウスからなかなか出てこられなかった。
ところが、コースを駆け抜ける突風を浴び続けるうちに、心は不思議と大好きなゴルフに傾いた。「風が吹いてきたら、なんか楽しくなってきちゃって。『ゴルフ、面白いなあ』って」。
中盤9番から2連続ボギーを叩いた。それでもスコアとは別次元のところでテンションは上がっていく。160ヤードを残した12番ホールの第2打。本来は180~190ヤード計算の3番ユーティリテを握って会心のショットを放っても、アゲンストの風に阻まれグリーンエッジまでしか届かない。だがそんな状況すら「あらら~すごい楽しい~」と、前向きに受け入れたままプレーを終え、気づいてみれば今季初勝利に王手をかけていた。
この日は、なんとか倒れまいと朝食を詰め込んでスタートしたが、それも普段の半分程度。「まあ、私の半分が普通のOLさんくらいでしょ」と、ジョークを飛ばすほどのサービス精神は変わらず旺盛だ。それでも前週「アクサレディス in MIYAZAKI」では初日のラウンド後に呼吸困難で緊急搬送された。絶対に無理はできない。「一番強いのは、死にたくないという気持ち」と言うのも、あながち冗談には聞こえない。
だからチャンスを目の前にしても「攻めすぎずにマイペースで」が最終日のテーマ。
思い起こせば、似たようなピンチの状況を乗り越えたのは2009年のプロテスト。「テストの前にぎっくり腰をやって、振り切れない中でトップ合格をして人生が変わった」と振り返る。「あの時の方がつらかったかもしれない。プロテストは1打もミスをできない怖さがあった。でも今週は選手がみんな苦しんでいて、ボギーも、ダボも出るものだと思える」。
マイペースはとりわけ、難コース・葛城での正しい姿勢。感情はマスクで覆い隠し、ウイニングパットを決めて見せる。(静岡県袋井市/桂川洋一)