国内男子ツアー

“重い”日本のゴルフへの思い/石川遼インタビュー ゴルフ未来予想(1)

2024/01/16 17:45
新春の単独インタビュー。32歳になった石川遼と日本のゴルフの将来を考える

石川遼は昨年9月に32歳になった。すでに人生の半分に及ぶプロ生活で、ツアーでの活躍もさることながら、幅広い分野で今ある日本のゴルフ界に影響を与えてきたことは疑いようがない。個人の技術だけでなく、ジュニア育成や大会運営、コースセッティング…と多岐にわたる興味関心。2024年新春、ゴルフに見る将来への希望を全3回の単独インタビューで語った。初回はウェアに始まる新たなゴルフのスタイルの提案について。(聞き手・構成/桂川洋一)

日本のゴルフは重い?

昨シーズンもゴルフ界に様々な“仕掛け”を

2023年シーズンの終盤、国内ツアー「ダンロップフェニックス」で石川はキャディバッグに軽量のセルフスタンドモデルを使用した。プロの間で一般的な大型のツアーバッグからの変更には「ゴルフがセルフで気軽にできるみたいな文化を、ゴルフって結構、軽くできるんだみたいな面もアピールできる」という思いがあった。

よくよく考えれば、この言動から浮き彫りになることがある。「自分でそう言うということは、逆説的に、裏を返せば『(ゴルフが)重いと思っている』と思うんですよね(苦笑)。言い方としては“日本での”ゴルフが…というのが正しいのかな。プロゴルフも含めて、日本はやはり独特だなと感じる」。10代の頃から海外でのプレー経験があるからこそ思うことがある。

「各国で特徴があるはずで、これ(現在の姿)は日本のスタイルなんだろうと思います。だから『別のこの国のやり方が正しい』という話ではない。ただ、自分も30代になって、若い人たち、年下の人たちがゴルフをやる姿を見た時に、プロゴルフ界にいる人間、というよりも、ゴルフというスポーツをずっとやってきているひとりとしても、ゴルフのファンとしても、“これがゴルフの当たり前”だと思って違和感を持たずに続けていることが多いんです」

コース入場にジャケットは“マスト”か

ゴルフ場でのウェアはどこでも同じであるべきか

石川自身、ジュニア時代には疑問に思うことすらなかった慣例のひとつに、コース入場時のジャケット着用の決まりがある。

「ゴルフウェアの上にジャケットを着てクラブハウスに入る。僕自身、物心がついた頃にはそれをやっていた。小学生の時、優勝者はブレザーを作ってもらえるジュニアの大会があって、僕はそのブレザーしか持っていなかったんです。それからは、ゴルフ場に着て行くのが当たり前になった」

世界を見渡せば、英国の伝統的なクラブなどでは同様の厳格な決まりが設けられている。近代ゴルフが貴族のたしなみとして愛されたことにも由来するが、石川が首をかしげるのは日本の大多数のゴルフ場がその慣習を画一的に踏襲していることだ。

「それもスタイルなんだろうなと思うんですけど、たくさんのゴルフ場で決まりごとの文言が多くある。その文言の全てが、本当に本質的なことを言っているのかどうか…。ジャケット着用の決まりにしても、それを忠実に実行しているゴルフ場もあるけれど、実際にコースに行ってみたらそのルールが“ユルい”ゴルフ場もあるじゃないですか。『一応、書いてある』だけで、その“効力”が(どこのコースにも)必ずしもあるとは言えない」

石川は「全てのゴルフ場でジャケット着用のルールを廃止すべきだ」と訴えたいわけでは決してない。ただし、ジャケットなり、伝統的なゴルフウェア着用の決まりが、ひょっとするとゴルフを始めてみたいと考えるビギナーのハードルになる恐れがないか、ということだ。

「中にはその堅苦しさで『ゴルフが遠い、重い』と思っている人もいる。僕たちプロゴルファーみたいに、それ(日本の伝統的なスタイル)に慣れている人はたくさんいるけれど、やはりこれから先は慣れていない人たちのことを考えるのも大切だと思うんです」

“Tシャツゴルフ”イベントを開催

ジャケットのみならず、コースでのやはり画一的なドレスコードにも疑問を抱いていた石川は昨年7月、契約するキャロウェイゴルフ傘下のウェアブランド「トラヴィスマシュー」(TravisMathew)のイベントをプロデュースした

ファンを集めたラウンドでTシャツの着用、裾出しを認め、ショートパンツでのプレーを推奨。「『ゴルフって、こういう楽しみ方もある』と広めたい」と、ファッションのカジュアル化はもとより、多様化を提案した。「キャロウェイは“飛んで曲がらないドライバー”だったり、“止まるボール”だったり、ギアを中心にしながらゴルフに幅広くアプローチしている。トラヴィスマシューはアパレルブランドなので、もう少しライフスタイル寄りで、世界観を楽しんでもらえるといいなって」。場内に設けたDJブースから音楽も流す異色のスタイルだった。

「もちろん、ジャケット着用が必須だという所には、そのゴルフ場のスタイルがある。それを踏まえて、僕は『こういうのもあってもいいんじゃない?』という提案をしていて、賛同してくれるゴルフ場もあるのではと考えている。その違いはもちろん上下ではないし、右左でもない。ただ『”端っこ”(伝統を重んじるゴルフ場)があるなら、もう片方の端っこもあっていい、対極があってもいいですよね』という意味なんです。当然、その中間だってあっていいと言いたい。(現状は)偏っているように感じるから」

「ウェアはスコアに影響する? いやあ、スコアにはしないでしょうね。でも、全部が全部『今まで続けてきたことを変えてください』ということではないんです。僕が言っていることに『そうだよね』って思ってくれる人も、『違う』と思う人もいていいはず。ただ、僕が言うことに賛同してくれる人の中に、例えばゴルフ場の人だったら『そういうお客さんの層もありますよ、一定の需要はきっとありますよ』と伝えたい」

彼は、石川遼にとっても衝撃的だった

2010年の「AT&Tペブルビーチナショナルプロアマ」で一緒にプレーした石川とファウラーChris CondonPGA TOUR)

ウェアに関して言えば、石川はプロ転向から5年間、契約を結んでいたヨネックスにも斬新なアイデアを提案し、当時はまだ珍しかった形のキャップや、コーディネートを披露してきた。しかし、2013年にPGAツアーに本格参戦した頃の衝撃は忘れられない。

「僕はめちゃくちゃ“リッキー派”なんですよ」。男子ゴルフ界の世界的なファッションリーダーと言っていい、リッキー・ファウラーのプロゴルファーとしての在り方は石川の心を打ち抜いた。フラットビルキャップに始まり、アロハシャツのようなウェア、ハイカットシューズ…。目新しいコーディネートはことあるごとに話題になる。

「リッキーは定期的にそういう動きをしている。キャディバッグもいち早くスタンドバッグを使ったり。『こういうゴルフのスタイル、どうですか?』というのを(契約先の)プーマ、コブラとうまくアイデアを出して、PGAツアーで実際に表現しているところがすごい」

「出会った時『この人にはものすごいカリスマ性がある』と感じました。『ゴルフのイメージを、たぶんリッキーの思った方向に変えられる力がある』って。タイガー・ウッズのゴルフのイメージの変え方とはまた違う。タイガーはゴルフをアスレチックに変えてくれた。タイガーが出てくる前までは、大多数のゴルファーがトレーニングをしなかった。トレーニングはしない方がいいとさえ言われていた時期に、あそこまでズバ抜けたことをして、ゴルフに与えた影響は僕らにとっても大きい。『ゴルファーはアスリート』というのを見せてくれた」

「(一方で)リッキーはゴルフの楽しみ方をより違う角度からアピールしてくれている印象がある。彼はモトクロスバイクから来ている(少年時代はレーサーだった)じゃないですか。レッドブル(エナジードリンクの世界最大手)もスポンサーにいて、別の世界を知っている。彼からすると、米国のゴルフでさえも堅苦しく感じているのではとすら思わせられる」

Tシャツゴルフイベントの反省

先のトラヴィスマシューのイベントは第一線のツアープロが主導する催しとしては画期的だったが、石川には反省点があるという。

「参加された人には18ホールを回ってもらって、僕が1ホールずつみなさんの組について一緒にプレーする形にしました。でも『ゴルフ=18ホール』というところにちょっと固執してしまったな…と思ったんですよ。『やっぱりオレも、ゴルフは18ホールを回るものだと思ってるやん…』みたいな。ハーフ(9ホール)でもイイんじゃないかという声もあったのに」

ゴルフの固定概念をぶっ壊す、そんな気概を持っているからこそなんだか悔しい。「すごく反省というか…、来てくれた人たちと一緒にゴルフをやったけれど、なんかこう『やりました』という“証拠”をただ集めただけで満足してしまったような…」と苦笑いする。

「今の時代だからこそ『こういうゴルフがあったらいいな』って思われていることにどんどんトライしたい。僕はこの先のゴルフの市場を大きくしたいとか、広げたいという話をしてるわけじゃなくて『ゴルフってめっちゃ楽しいですよ』というのを純粋に知ってほしい。ゴルフの楽しみ方は様々で、ファッションでも、スタイルでも楽しめる。だからアパレル業界も、ゴルフ場業界も、そしてお客さんも、一緒に盛り上がっていくのがいい。日本の人口は減っていくわけですけど、その時、ゴルフ人口は減らないでいけるはずだという可能性を僕は感じている」

ひとりのゴルフを愛する人としての模索は、まだまだ道半ばだ。