「恐怖はなかった」木下裕太を覚醒させた金谷拓実&星野陸也との真っ向勝負
◇国内男子◇バンテリン東海クラシック 最終日(1日)◇三好CC西コース (愛知)◇7300yd(パー71)◇曇り(観衆4327人)
最後はもらい泣きだった。日大時代の後輩でもある島野隆史キャディの涙を見て、木下裕太も顔をくしゃくしゃにして泣いた。一緒にあふれてきたのは2018年の初優勝の時よりも、もっと大きな達成感。「満ちあふれているというか…。日本ツアーで1位2位と言っても過言ではない2人に真っ向勝負で勝てた」。金谷拓実、星野陸也との最終日最終組でつかみ取ったタイトルの余韻をかみしめた。
ここまで賞金ランキング87位に低迷。昨年はシーズン初戦から9試合連続で予選落ちを喫するなど、「誰もがシードを落とすだろうと思っていたはず」という状況から当地でトップ10に入って上向き、なんとか滑り込んだ。「今年ここでダメなら…」。半ば覚悟して最終予選会(ファイナルQT)の練習日程すら考え出したタイミングで訪れた千載一遇のチャンスだった。
前日の夜は、なかなか寝付けなかったそうだ。ただ、いつも上位にいると感じるという恐怖からではない。「遠足前の小学生のようなワクワク感。キャディとも話していたんです。『逆に相手がすごすぎるから、気が楽じゃないですか』って」
年下のプレーヤー2人を最大級にリスペクトする37歳の胸に宿った「完全なる挑戦者の気持ち」。5年前に勝つまで抱いていた、QTから必死にはい上がろうとした日々のそれに近かったかもしれない。
サンデーバックナインの競り合いで、最初に脱落しかけたのは自分だった。ティショットを曲げた15番(パー5)で同組2人が2オンに成功。「特に星野くんが“えげつない”くらい良い球を打ってきた。ここで獲らないと負けだと思って、バーディしか狙ってませんでした」。残り130ydほどの3打目で作った6mのチャンス。渾身のクラッチパットをねじ込んだ。
手ごわい2人は、ひと息つく暇も与えてくれない。直後の16番(パー3)ではオナーの金谷がスーパーショット。「先に打ってもらって、僕も覚悟を決めるしかなかった」。5Iでボールを捕まえにいきながらカット気味に打つ独特の一打がピン横にピタリとついた。「あれ、僕もビックリしました」。金谷のバーディパットが外れた後に打って左を抜けても、難関ホールをパーで切り抜けた安心感が勝った。
ただ一人ドライバーを握った17番。「刻んだら、ピン位置的にバーディが獲れないと思った。もう、勝負ですよね」。残り138ydから9Iで右サイドに切られたピンの狭いエリアを攻め込み、3mを沈めてこぶしを握った。「あの組じゃなかったら、優勝はなかったかもしれない」――。自らのゴルフまで引き上げるようなプレーを見せてくれた2人への敬意。32歳の初優勝までも、勝ってからの5年間も苦しんできた。頂点に立ってなお、謙虚さを貫いた。(愛知県みよし市/亀山泰宏)