「もうダメかと思った」木下稜介を変えた“出会い”
◇国内メジャー◇日本ツアー選手権 森ビル杯 Shishido Hills 最終日(6日)◇宍戸ヒルズカントリークラブ(茨城県)◇7387yd(パー71)
最終18番のセカンドでグリーンを捉えたときから、木下稜介の目はうるんでいた。ウィニングパットを沈めたカップからボールを拾う前に、感情の波は制御不能になった。「長かったです。夢見た場所に来られて良かった。本当にうれしい」。素朴な言葉のひとつひとつに実感がこもった。
4打差の単独首位スタート。午前4時に目が覚めた。スタートまで6時間以上あるのに、もう一度寝付けない。「緊張してるんかな…」。1番のティイングエリアに立つと、きのうまでと別のホールのように狭く感じる。自身4度の最終日最終組のうち、この2020-21年シーズンだけで3度目。「4打リードがあって勝てないなら、もう勝てない」。貯金は一転してプレッシャーになった。
左のバンカーに入れてもいいと思った最初の一打だったが、右に大きくプッシュして林へ。ただ、奇跡的に前が開いていたことでパーセーブに成功した。「本当にツイているとしか言いようがない。一番大きかった」
2番(パー5)で完璧なティショットからバーディを奪い、終わってみれば通算14アンダー。ただ一人4日間60台をそろえ、後続に5打差の圧勝。「逃げずに勝負できた」と胸を張った。
ツアー本格参戦8年目。「正直、もうダメかなと思ったこともありました」。転機は昨年。女子の稲見萌寧らも指導する奥嶋誠昭コーチを紹介され、二人三脚での取り組みが始まった。
4月「東建ホームメイトカップ」での惜敗後は課題のショートゲーム、パッティングにフォーカス。利き手の右手一本で打つなどドリルを繰り返し、一定のリズムでストロークすることを徹底した。「悪くなる傾向を自分でもわかってきて、試合で修正できるようになったことで焦ることがなくなった。そこが『東建』から一番変われた部分」。今週も動画のやり取りでチェックしてもらい「見てもらうと良くなる。マジックみたい」と感じた手応えは、大会を通じた平均パット4位と数字に表れた。
「初優勝が本当に遠くて、呪縛じゃないけど本当に苦しかった。その荷物をやっと下ろせた」。充実感をにじませつつ、貪欲だ。「東建-」で優勝をさらわれた金谷拓実をはじめ、賞金ランキング上位3人が不在の一戦だった。「前回金谷選手に負けましたけど、(次は)同じようにはいかない自信と手応えを感じています。今シーズンであと2勝はして、目標は賞金王」。殻を破った29歳の目の前には、新たな景色が広がっている。(茨城県笠間市/亀山泰宏)