2017年 ジェネシスオープン

記者会見は手話で ウッズに導かれた”聴覚障害”黒人プロの夢

2017/02/16 13:58
手話でインタビューに答えるホール。左手前のマイクを持った女性が“通訳”した

◇米国男子◇ジェネシスオープン 事前情報(15日)◇リビエラCC(カリフォルニア州)◇7322yd(パー71)

英会話が難しい選手の場合、米ツアーのインタビュールームには各国語と英語との通訳がつくのが通例だ。ただ、きょうは違う。開幕前日、午後の会見場に招かれた彼をサポートしたのは、手話で通訳する女性だった。今週推薦出場するケビン・ホールは、11年ぶりにレギュラーツアーの舞台に立つ34歳。幼いころから聴覚障害を持つプロゴルファーだ。

ホールは2歳のときに細菌性髄膜炎(ずいまくえん)で聴覚を失った。耳で聞くこと、口で話すことが不得手だが、そんなハンディキャップはものともせず、9歳でゴルフを始めるとメキメキと実力をつけた。トップアマとして名をならし、黒人ゴルファーとしては初めてオハイオ州立大に奨学生として入学し、チームのキャプテンも務めた。プロ転向後の道のりは険しく、2006年までにレギュラーツアー5試合に出場したが、いずれも予選落ち。それでも現在はミニツアーを主戦場とし、昨年2勝を挙げた。

心の支えは、同世代の選手と同じようにタイガー・ウッズだった。父と一緒にテレビを見て「僕も彼みたいになりたい」と夢を描いた。1999年5月、16歳だったホールはシンシナティで行われた、ウッズの基金が主催するジュニアクリニックに参加。ウッズから直接レッスンを受けて上達のきっかけをつかみ、「いつか、PGAツアーで会おう」と声をかけられたという。

そのウッズの基金が運営に加わっている今大会。2月初旬、黒人初のツアーメンバーとして知られた故チャーリー・シフォードの名を博した推薦出場の切符を得た。「ウッズの基金からメールをもらったときは、胸が締めつけられるくらいうれしかった。本当にビックリして、何か飲まないと!って」

試合でのスイング中、ギャラリーの携帯電話の音には気づかないが、人一倍、背後での観客の動きには敏感だという。昔、出場したプロアマ戦で、ギャラリーの静止を促すボランティアが掲げる「お静かに!」というボードを見て、「僕は耳が聞こえないから、気にならないよ!」と声にしたこともあった。「そうしたら、彼はそのボードをゆっくり下ろしたんだ。なんだか悪いことしちゃったな(笑)」

はじめのうち、少々緊張感が走った会見場は、彼の天真爛漫な性格と仕草でいつの間にか笑顔で一杯になっていた。ホールにとっては、このPGAツアーはいまも夢の舞台。下部ツアーの予選会にも参加し、「いつか僕もこの場所で」とシード選手としてプレーする目標がある。

前回ツアーに出場した11年前、彼はこんな言葉を残している。

「人々は僕のことを聴覚障害者の黒人として見る。そうでないゴルファーだと見るようになることは、これからもない。それは僕のストーリーなんだ。でも、そのストーリーが、誰かがやりたいことにトライしたり、夢を追うこと手助けになったりすればいい」

幼いころからウッズの背中を追い、夢に邁進してきた25年の月日。彼の姿に夢を見る人も、きっとどこかにいる。(カリフォルニア州パシフィックパリセーズ/桂川洋一)

■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール

1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw

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