「楽して勝ったことはない」 進藤キャディが語る松山英樹との2勝目
「僕たち、一回も楽をして勝ったことがない。全部、接戦しかないですから」。76ホールの長丁場を戦い終えた進藤大典キャディは、そう言って汗をぬぐった。「勝てた一番の要因は、英樹の底力と粘り強さです」。61万8365人が訪れた「ウェイストマネジメント フェニックスオープン」で、松山英樹は2年ぶりとなるツアー2勝目を達成した。
最終日、松山は一度も単独首位に立たなかった。
ダニー・リー(ニュージーランド)を3打差で追いかけてスタート。3番で松山、リー、リッキー・ファウラーの3人が首位に並んだ。10番のチップインバーディでファウラーがひとつ抜け出すと、15番で2打差となった。
16番(パー3)では、先にティショットを打ったファウラーが2.5mのバーディチャンスにピタリとつけた。取り囲むスタンドからは、割れんばかりの大歓声。その後、松山は4mにつけたが、多くのギャラリーは無関心を装っているかのようだった。
ここで差を広げられたら勝負は終わる。だが、松山のバーディパットは無情にもカップの横をすり抜けた。「あぁ、今年も上位争いをして終わるんだ…」。松山はこのとき初めて負けることを意識した。続くファウラーもバーディパットを外したが、勝負は2打差で残り2ホールとなった。
再び進藤キャディの言葉を借りる。「僕らは2年連続で最後までいって悔しい思いをした。だからリッキーにも、もしかしたら何かあるんじゃないかなって信じてやりました。2打差で苦しい展開だったけど、ベストを尽くすことだけを考えました」。
松山も同じだった。負けを意識しても、自分はベストを尽くすだけ。「イーグル、バーディか、バーディ、バーディじゃないと追いつけないって、ちょっと心境の変化はあったけど…」。ファウラーがティショットを池に入れた17番。松山はグリーンに行って、初めてそれに気づいたという。そして思った。「まだワンチャンスある――」。
そこで追いついたが、優勝にはまだ越えなければいけない壁がいくつもあった。最終18番は下り5m、プレーオフに入っても2ホール目で4m、3ホール目で1.5mのパットを沈めた。いずれも、外せば負けが決まるクラッチパットだ。
「今週に限っては、ちょっとパットに自信があった」。松山はさらりと言った。
「手強いなと思われたいし、あいつとはやりたくないなと思われるような存在になりたい。そういうプレーができるように、もっともっと練習したい」。何度も窮地に追い込まれたが、松山は最後まであきらめなかった。
表彰式、TVインタビューに記者会見。優勝者のすべての任務から解放されて、ようやくクラブハウスの駐車場にたどりついたときには午後6時を回っていた。「あー、腹減った。何か食うもんない?」と松山。「あるよ」と進藤キャディ。
「いつも苦しい。ここからまた苦しいことが待っていると思う」と、半ば達観したように笑う進藤キャディだが、差し出されたおにぎりを無邪気にぱくつく松山からは、どんな苦しさも乗り越えていってしまうかのような逞しさがあふれていた。(アリゾナ州フェニックス/今岡涼太)
■ 今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール
1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka