アダム・スコットの失ったもの
「全英オープン」の勝負も大詰めとなった15番、グリーンサイドバンカーから2mに寄せたパーパットを外してスコアを落としたアダム・スコットだったが、それでもまだ2位のアーニー・エルスとは3打差が開いていた。
16番ホールは18番から離れていき、17番で折り返して戻ってくる。その遠く離れた16番グリーンで3パットのボギーとしたスコット。その周囲は妙に静かで、遠く18番方向から聞こえてくる歓声だけが妙に寂しさを誘う。2打差となり、見ているこちらまでそのリードがはかないものに思えてきた。
17番のティショットはフェアウェイに打ったスコットだったが、セカンド地点につくと18番グリーンから大歓声が聞こえてきた。「ああ、その歓声は聞こえたよ。リーダーズボードを見なくても状況はわかったよ」というスコット。双眼鏡でグリーン脇のボードをみると、確かにエルスが「-7」になっている。直後の2打目をグリーン左のラフに外すと、草刈りのようなアプローチはピンを大きくオーバー。ここでもスコアを落とし、ついにエルスに並んでしまった。「あの2打目が一番がっかりしている。ピンの右に打っておけば、まだリードして18番を迎えられたのに」と、スコットは肩を落とした。
「まだ、飲み込めていないのかもしれない」というスコットの会見は、悲劇の主人公(自作自演だが)にしては、爽やかすぎてその痛手が伝わってこなかった。優勝したのが仲良しのエルスで、彼が大いに気を遣ってくれたのも、スコットの落胆を和らげた一因だろう。
1979年、ここロイヤルリザムで16番脇の臨時駐車場からバーディを奪って初のメジャータイトルを獲得したセベ・バレステロスを、当時のアナウンサーは「神はこの若い青年にほほ笑みかけている」と実況した。今日、その神様はスコットに乗り越えるべき試練を与えた。これがメジャータイトルの重みというものなのだろうか?スコットの笑顔が、真実を覆い隠しているようだった。(英国リザムセントアンズ/今岡涼太)
■ 今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール
1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka