実直で謙虚「いい出会い」から丸一年 久常涼がキャディのビリーと目指すステージ
◇米国男子◇バルスパー選手権 事前(18日)◇イニスブルックリゾート コパーヘッドコース(フロリダ州)◇7352yd(パー71)
ターゲットまでの残り距離を正確に教えてくれること。決まったタイミングで水筒を差し出してくれること。最初のうちはそのふたつをこなしてくれればよかった。コースでの丁寧な仕事ぶり、選手が到着する30分前には練習場でいつも待機しているような実直な人柄は、時間が経つにつれて信頼へと変わった。久常涼がキャディの“ビリー”ことウィリアム・スペンサー氏とタッグを組んでちょうど一年になる。
昨年の「バルスパー選手権」はPGAツアー2年目のベストフィニッシュだっただけでなく、久常がスペンサー氏を初めて起用した試合だった。「いい出会いがあってよかった」と改めて思う。「彼はめちゃくちゃ働き者。ウソみたいに体力があって、“いつも通り”を変わらずやってくれている。この世界が長くて、助けてもらうことがすごく多い。コースもよく知っていてタフな状況で的確なアドバイスをくれる。本当に頼れる方です」
スペンサー氏はカナダ・トロント出身の50歳。学生時代はアイスホッケーに明け暮れ、大学卒業後に地元のゴルフ場に就職しスタッフとして働いた。自身のプレーが上達するにつれて興味は次第にツアーの世界へ。プロキャディに転身し、PGAツアー2勝のジェイソン・ボーンのバッグを10年以上担いだほか、ボー・バン・ペルトら数多くの選手をサポートしてきた。
英語が母国語でない選手のサポートは、通算2勝のイム・ソンジェ(韓国)のときに経験済み。「ソンジェはそれほど英会話が得意ではない。でも、私の言いたいことが伝わっていないと思うときは、別の言い回しで説明し直せばいい。工夫すれば、言葉の壁は越えられるんだよ」と語る。「とはいえ、リョウとは最初からコミュニケーションに問題はまったくなかった」というのはやはり、久常が海外生活を通じて語学力をつけてきた証拠だ。
23歳はPGAツアーでも若手の部類に入るが、スペンサー氏の見方は少し違う。「彼は18歳でプロゴルファーになり、もう6年目。あの年齢からするとベテランの域にもいる。アメリカの大学を卒業したての選手たちとはレベルの差がある」。高校卒業とともに日本ツアーに飛び込み、2年目の2022年秋には欧州ツアーを主戦場にした。24年から米国に渡ったことで、プロ生活はすでに海外での方が長い。
頼れる相棒が久常を「年齢以上」と見るのは、「彼は自分が何をすべきかを深く理解している」点にもある。「そもそも、PGAツアー1年目でシードを獲得できることが簡単なことではない。全体の10~15%しかいないんだ。彼は課題を(成績と)照らし合わせて、チッピング、パッティングと段階を踏んで磨いている。経験を積んで、精神的な余裕も生まれ、合うコースとそうでないコースを見極めている」と日々の前進を目の当たりにしてきた。
「自分のゴルフをどう適応させていけるか。そういったことがまさに成長というものだと思う。その先に待っているのが“ヒデキ(松山英樹)クラス”のプレー。毎年、好きなコースを選んでプレーして、シグニチャーイベント、メジャー、プレーオフシリーズに照準を絞れるようになる」。2人が目指すべきは、初勝利はもちろん、その先のエリートクラスへの到達だ。
タッグ結成1周年を記念して、2ショットの撮影をお願いした。久常が「これで日本でも有名になるね!」と笑いかけると、スペンサー氏は不思議そうに言った。「いやいや、私はただのキャディ。ひとりのカナダ人のキャディというだけだ」。親子ほどの年の離れた相棒は、きょうも謙虚に黒子に徹している。(フロリダ州パームハーバー/桂川洋一)
■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。X(旧Twitter): @yktrgw