PGAツアー1年生・久常涼がアメリカで感じた「1打の重み」/単独インタビュー前編
PGAツアー本格参戦初年度で来季のシード権をほぼ手中に収めた久常涼。今週再開するフェデックスカップ・フォール(秋季シリーズ)はさらにランクを上げる戦いだ。欧州ツアー(DPワールドツアー)を経てたどり着いた新天地は22歳の青年の目にどう映っているのか。喜び、苦悩、驚き、葛藤…心の内を本人に語ってもらった。(取材・構成/服部謙二郎)
面食らった欧州ツアーとの違い
思えばこれほど順調に階段を上ってきた選手は、そう多く見たことがない。日本の下部ABEMAツアーから、レギュラーツアー、欧州ツアーと足踏みすることなく階段を上ってきた。そして今年、PGAツアーでは年間ポイントレース84位でレギュラーシーズンを終え、来季のシード獲得に大きく前進した。
シード権を取ることすら難しい世界。順調に走ってきたかのように見える久常も、順風満帆だったわけではなかった。シーズン序盤こそ2戦目「ザ・アメリカンエキスプレス」で11位に入るなど順調な滑り出しを見せたが、「問題はそこからですよ。あれ?うまく行かないぞ」と2月以降、予選落ちが増えるようになった。「あの頃からちょっと具合が悪くなっていましたね(笑)」と当時の心境を吐露する。
「正直、ゲーム性の違いに戸惑いました。(昨年の主戦場である)ヨーロッパだと、みんな飛距離が一緒ぐらいで、セカンドオナーになることは滅多になかった。でもPGAだとセカンドオナーが多くて、アイアンの番手も含めて飛距離の差を感じていました。このパワーゲームの雰囲気、やっぱりアメリカが1歩、2歩先を行っているなとひしひしと感じていた」。キャリーで平均300yd弱の久常も、ライバルたちの飛距離に圧倒されていた。
「5月頃まではガムシャラでしたね。目の前のやることが多くて、もういっぱいいっぱい。フィールドもすごいし、みんな飛ぶし、コースもキツイし。これやべえな…って」
初出場した4月の「マスターズ」で受けた衝撃はさらに大きかった。「メジャーになるとショットの難度がもうひと段階上がる。長い距離をピンポイントで打たないといけない。ショットだけでなく、アプローチもパットも全てが足りていないのを痛感した試合。僕の今のレベルだと、“2つぐらいの運”がないと予選を通って、上位に行く姿を想像できなかった」。自分はアメリカで生き残れるのか、苦悩は深まっていた。
自信を取り戻した「全米プロ」
落ち着きを取り戻したのは、5月のメジャー第2戦「全米プロゴルフ選手権」だった。予選を41位で突破、週末は「67」を並べて18位で終えた。「雨でコースもぬかるんでいたし、芝も日本みたいで、(ボールが)ちょっと浮いていてアイアンのヘッドが入れやすかった」という幸運も感じてはいたが、「あの18位は大きかったです」と振り返る。
「ようやく『やれたかな』って実感できた試合。本当にいいプレーができた」。メジャーでの60台連発は大きな自信に。最終日に同組だった松山英樹の「初めて試合で回ったが、良い選手ですよね。なんであれで予選を落ちるんだろうと不思議に思いました。飛びますし、アイアンも真っすぐ行くし、アプローチもそこそこ寄る。パターも入るしね」という手放しの賛辞にも背中を押された。
この時期、久常にはある変化が起きていた。「難しいコースになると、しょうもないミスをしてスコアを崩すことが多かったんです。その1、2打で予選カットを繰り返していた。PGAツアーはその1打を取り返すのが大変。細かい部分で丁寧さが欠けていたかなと、途中から気づくようになりました」
マスターズを除けば、前半戦の予選落ちは1打足りなかった試合ばかり。それを前向きにとらえ、足りない1打はどこを補強すればいいかを考えるようになった。「カットラインの近くでやれていたのは悪くない指標というか、自信にはなっていた。ずっと1打以内に収まっていたので、『1打のプライド』って自分に言い聞かせていました」
レギュラーシーズン最終戦「ウィンダム選手権」では3位。優勝まであと一歩に迫り、初のトップ10入りを決めた。「いつも予選通過ラインギリギリから30位より上をちょっとでも目指そうという状況でしたからね。優勝が見える位置での戦いは久々だったので、結構、緊張しました。最後は短いパットも外しちゃって…。でも『こういうプレーをすればPGAでも優勝争いができる』というのが見えたのはすごく大きかった」。最後のパーパットが入れば、トップ70に入ってプレーオフシリーズ進出の可能性もあった。
1、2打を縮めるプランとは
来季のシードはほぼ手中に収めた。では、プレーオフに進んだ上位70人とは何が違うのか。少し思考を巡らせて「やっぱり1打の重みですね」とポツリ。「予選落ちの1打もそうですが、トップ10の近くにも同スコアがいっぱいいて、1打で順位が大きく変わる。難しいコースであればあるほどその重みが大きい。ショートゲーム、パッティング。『上位選手はきめ細かい1、2打を落とさない』と一年を通して強く感じました」
久常は秋季シリーズを前に、打数を縮めるプランを練っていた。「何かひとつというよりも全ての積み重ね。それが細かい1打になる気がする。本当のことを言うと、全部が足りていない。ショットもある程度打てるようになったと思いますけど、スタッツを見ると良いわけでもない。全部が平均ぐらい。それが全体的に良くなれば、もっと戦えるのかなというのが、いま僕が考えていることです」
PGAツアーの公式サイトで久常のスタッツをチェックしてみる。ストロークゲインド(スコア貢献度)の各項目(ティショット、グリーンを狙うショット、グリーン周り、パッティング、それらのトータル)は、確かに平均的な五角形だ。しかしポイントランク9位の松山英樹の五角形は久常のそれよりも大きい。他の上位選手もバランスよく各部門で高い数値を残している。
「何か一つを具体的にというよりも、全てのレベルがもう1段階上がらないといけない。自分の“ゴルフという大きな箱”が今はスカスカなので、全ての項目でスキルを上げて、箱の中身を詰めていきたい」
箱の中にはもちろん「飛距離アップ」の項目もある。「距離を一気に伸ばすのは難しいと思いますが…」と前置きしつつ、「今だとミニマム(最低限)すぎるんです。向こうはベテラン選手でも飛ぶ人が多くて、この前もチャーリー・ホフマンと回ってドライバーで負けた。あの人、47歳ですよ。それはキツイなと思いました」。そんな話をしているときの久常は、なんだかワクワクしている。この男、まだまだ伸びしろがたっぷりありそうだ。
協力/瑞陵ゴルフ倶楽部