噛みしめた意外な一打 大山志保の9年ぶり大会制覇
新潟県のヨネックスカントリークラブで開催された国内女子ツアー「ヨネックスレディス」は、大山志保が最終ホールのバーディで今季初勝利をもぎとった。「9年前の優勝との違いを挙げるとすれば、アプローチのレベルが格段に上がったこと」。賞金女王を取った2006年シーズン以来となる2度目の大会制覇で、大山が勝利を呼び寄せたプレーに挙げたのは、意外なシーンでの一打だった。
第2打をグリーン左奥のラフに打ち込んだ5番。ボールはピンまで約15ydの左足下がりのライに沈んでいた。58度のウェッジでフェースを開き、低くスピンを効かせて打ったアプローチはピン1.5mにピタリ。結果としては、パットを外してパーセーブできなかったのだが、「100回やっても1回できるかどうかのナイスアプローチ。きょうのベストショットだった」と胸を張ったのだ。
以前はアプローチショットへの苦手意識が強く、緊張を伴う場面ではなかなか練習通りに打つことができなかったという。メンタル面、技術面ともに成長を感じた一打。「06年は勢いで勝てた。いまはアプローチが楽しい」と9年間の成長を実感し、ボギーで流れを悪くすることもなく優勝争いで一歩も引かなかった。
首位を守って迎えた最終18番(パー5)では、“らしい”見せ場を作った。「(後続に)1打差では不安もあった。だからイーグルを狙って行った」と、気持ちの入ったティショットは右ラフへ。第2打をフェアウェイに置くと、残り83ydの第3打は、アゲンストの風の中を低くスピンをかけて打ち出し、ピン奥1mのチャンスにつけた。優勝を決めるバーディパットは「ストレート下りまっすぐ」。いつもの“強気”のプレースタイルを貫徹してボールをカップに沈め、両手を高々と挙げて喜びを表現した。
2006年の今大会制覇から9年の間に、7勝を挙げ、通算16勝目でもあったが、ウィニングパットが沈む瞬間には、大山の脳裏をさまざまな想いが走馬燈のように駆け巡ったという。
ケガにより挫折に終わった米ツアー挑戦、2009年には左ひじ関節内のじん帯出術で「元には戻らないかもしれない」と執刀医から告げられたこと、不振に苦しんだ2012年のシード落ち、いつも支えてくれる両親、応援してくれるファン・・・。頂上に立った後の9年間で、多くを経験してきた。
現在38歳。大山は優勝インタビューで「50歳まで頑張る」とギャラリーに宣言した。常々話している「ゴルフを通して学び、人として成長したいからまだまだゴルフを続けたい」という情熱の一部を、この機に明かしたかったのだろう。「あっという間だった」という9年、その先の“12年”にはもっと成長できるチャンスがあると信じている瞳だった。(新潟県長岡市/糸井順子)
■ 糸井順子(いといじゅんこ) プロフィール
某自動車メーカーに勤務後、GDOに入社。ニュースグループで約7年間、全国を飛びまわったのち、現在は社内で月金OLを謳歌中。趣味は茶道、華道、料理、ヨガ。特技は巻き髪。チャームポイントは片えくぼ。今年のモットーは、『おしとやかに、丁寧に』。