奇跡から実力へ 大里桃子とパターイップス
国内女子◇ほけんの窓口レディース 最終日(16日)◇福岡カンツリー倶楽部和白コース(福岡県)◇6335yd(パー72)
始まりは2018年の最終戦「JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ」(11月)だった。会場の宮崎CCは国内ツアーで珍しい高麗芝のグリーン。30cmのショートパットを外し、大里桃子は「あれ?」と違和感を覚えた。
「悪いパットじゃないんだけど入らない。それがなんか気持ち悪いなって思ったままシーズンが終わっちゃって…」。同年オフに参加した企業のプロアマ大会では1mが決まってくれず同伴競技者に謝罪した。「19年シーズンが始まると試合でも短いパットが全然決まらなかったんです」。パターイップスに直面した瞬間をいまも覚えている。
プロテストに合格した1カ月後の18年8月「CATレディース」でツアー初優勝をマーク。1998年度生まれの黄金世代の一員として躍進を期待されたが、グリーン上での不振から翌年にシード喪失の危機に陥り、頼れる人たちに相談した。右手の親指、人差し指や中指を使ってグリップを挟むようにして持つクローグリップに変更し、矯正を試みた。
「クローグリップが案外良くてスムーズに手が動くようになった。周りからも良い感じと言われた。(19年10月の)『日本女子オープン』で2位になってシードを確保できたんです」。ただシード喪失という最悪の事態こそ免れたが、グリップの握り方の変更だけでは精神面が影響するイップスの根本的な解決にはならなかった。
「結局20年にはクローグリップでも(イップスの症状が)出始めてしまって。また打てなくなったんです」。今度は通常のクローグリップとは逆で左手を添える逆クローグリップに変えた。復調の兆しが見えたと思えばまた出口の見えない暗闇に。試行錯誤の連続。そんな日々に光が差したのは今春だった。
知り合いの勧めでパターのシャフトを33インチから36インチに変更した。さらに順手、クローグリップ、逆クローグリップをラウンドのなかで使い分けた。「距離によって打ち方を変えたり。気分で決めたり」。さらに練習では100球入れないと終わらないショートパットを続けた。そんな愚直な姿勢が実を結び始めた。
「それ(シャフトの長さを変えた)だけじゃないけど、やっていることが全部ハマってきたんです。これまで3パット、4パットして結局5オーバーなんてこともあった。(そんな経験を積んで)パットが外れてもいいやって気持ちの面でも吹っ切れた。最近は自信を持って打てています」
グリーン上の課題を克服し、前週までの2大会連続2位の優勝争いを演じた。今大会はついにプレーオフを制したが、外せば負ける2回の勝負どころのパットを前に自分に言い聞かせた。「いままで悩んできた。いまは自信を持って打てる。ここで(苦悩してきた経験を)生かさないで、どうするんだ?」。正規の18番(パー5)では5mを入れるバーディに何度も拳を握った。プレーオフ2ホール目は難なく2mを沈めた。
「1勝目は勢いのまま奇跡的という感じだった。『2勝目は実力』と言われたことがある。克服してやっと勝てた」。涙があふれ出た。(福岡市東区/林洋平)