レジェンドの1W レギュラースペックの青木功と“二刀流”のジャンボ尾崎
◇国内男子◇中日クラウンズ 初日(27日)◇名古屋ゴルフ倶楽部 和合コース(愛知県)6545yd(パー70)
名古屋ゴルフ倶楽部 和合コースの1番ティの脇には、休憩用の“茶店”がある。午前11時半過ぎ。5年ぶりの同組ラウンドを控えた青木功と尾崎将司は、この小さな部屋で談笑を交わしていた。ガラス扉の向こうで青木はホットコーヒーをすすり、尾崎は目薬を差して準備を整える。前の組がティショットを終えたのを伝え聞くと、大ギャラリーの待つ舞台へゆっくりと歩を進めた。
初日のスコアは青木「85」に尾崎「83」。期待されたエージシュート(実年齢以下のスコアで1ラウンドを回ること)どころか、あすの予選通過も極めて厳しいポジショでのスタートに、ともに口調は重たかった。
ゴルフはスコアで争われる。とはいえ2人のレジェンドの“スゴさ”を、スコアだけで測るのも惜しい。彼らの所作や、使う道具にはやはり、並外れたゴルフへの情熱がいまも健在だからだ。
青木が使用する1W(テーラーメイド グローレF)のスペックは74歳という年齢を感じさせないものといえる。ロフト10度、シャフト(UST マミヤ アッタス プロトタイプ)は長さ45.5インチ、重さ68g、硬さはSとXの中間。何十歳も年下のレギュラーツアーを戦う多くの選手たちとほとんど変わらない。
長いもの、重いもの、硬いものを力いっぱい振るためには、その分の負担に耐えられるだけの肉体が必要だ。「今年はデキるカラダにしてきた」という言葉は、下準備の充実があってこそだ。
一方の尾崎はこの日、キャディバッグに1Wを2本入れていた。テーラーメイド製の2つのヘッドは奇しくも青木と、モデルもロフト表記も同じもの。ただ、ジャンボが扱う2本は、どちらにも入っているセブンドドリーマーズ社製のシャフトの長さや硬さがわずかに違うという(詳細は企業秘密)。和合コースは距離が短いこともあり、この日はUTを1本抜いて、2つの1Wをホールごとに使い分けた。
メーカーの用具担当者は2人の違いをこう説明する。「青木さんは飛距離を追究しながらも、自分の感覚に合うことを一番に優先される。ジャンボさんは道具の性能の良いもの、新しいテクノロジーが詰まったものをどんどん試して、感覚を道具に合わせていかれることが多い」。1ydでも遠くへ、1cmでもカップの近くへとこだわる意欲の熱量は、年齢と反比例の関係にない。
実は2人がこの日のセッティングに至ったのは、スタートのほんのわずか前だった。青木はドライビングレンジで60gほどの軽いシャフトの1Wもテストしたが、直前でやはり使い慣れた重いモデルを選択した。尾崎が1Wを二刀流にすることを決めたのも、その頃だった。練習終了ギリギリまで思案を重ね、決心を固めて1番ティ脇の茶店に入っていった。
第一線を退いてなお大叩きに本気で悔しがり、自らのプレーを屈辱的と責める姿勢。それも全盛時代からきっと変わらぬ、日々の必死の準備があるからこそだ。(愛知県東郷町/桂川洋一)
■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw