石川遼が目指す世界基準 11勝目は夢への通過点
4日間合計274ストローク、そしてプレーオフ3ホールの12ストローク。石川遼はそのすべてで、自問自答を繰り返していた。「この1打は世界で通じるのか」―。
北海道のザ・ノースカントリーゴルフクラブで開催された「長嶋茂雄 INVITATIONAL セガサミーカップゴルフトーナメント」で2シーズンぶりの勝利を飾った石川。6月中旬に米ツアーの“一時休戦”を決めて一時帰国し、北海道で強化合宿を行っている最中での優勝だった。日本ツアーでのプレーだったが、頭の中では、いつも主戦場で戦う自分をイメージしていた。
石川がこの最終日、胸を張ったショットは2つある。正規の最終18番、花道からドロー回転で転がして寄せた3打目のアプローチ。そして13番での第2打だった。
13番は昨年まではパー5でプレーされていたが、今年は新たに463ヤードのパー4に設定された。砲台気味のグリーン手前には池があり、ティショットを両サイドの深いラフへと曲げると、一気にボギーの可能性が高まり、案の定4日間の最難関ホールとなった。
この変更には賛否両論があったが、石川は開幕前日「いろんな感じ方があると思うけれど、PGAツアーでやる分には沢山ある」と意に介さずティオフ。この最終日に、最高の見せ場とした。
ティショットをドライバーでフェアウェイの右サイドに置くと、残りは170ヤード。バンカーを越えた約6ヤードのところに切られたピンを望むと、右から緩やかなアゲンストの風を感じたという。石川はじき出したキャリーで打つべき数字は「164、165ヤード」。つま先上がりでボールはドロー回転がかかりやすい。「打ち出しはグリーンの外。そこに構えるのも勇気が必要だった」。
同組の小田孔明を1打差で追う状況だった。バンカーに入れれば、一瞬で差がひらくピンチになる。だが頭の中はクリアだった。「自分が常に練習しているショットを試すチャンスなんじゃないか。小細工は必要ない」。8番アイアンで放ったボールは理想通りの軌跡を描き、ピンそば20センチにピタリとついた。
通算11勝目は、米ツアー本格参戦後の初勝利。腰痛をはじめとした故障からの復帰、用具契約も変わり、トレーナーも、キャディも変わり、サポートチームが一新されてからは初めての嬉しい白星だった。2年前の優勝では本人も含めみんな泣いていた。だが、今回、そこに涙は一滴も見られない。
ここは、通過点。13番のバーディパットをタップインして石川遼が思ったのは「追いついた」ではない。「今のショットだったら、どのコースでも通用する」だった。(北海道千歳市/桂川洋一)
■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw