「ザ・ロイヤルトロフィ」を支えるセベの思い
香港から北西に100キロあまり。中国でも南部に位置する広州市で開催される「ザ・ロイヤルトロフィ」の会場・ドラゴンレイクGCの空は想像以上に青かった。懸念していた大気汚染の影響は気にならない程度だが、それでも大会には別の“暗雲”が立ち込めている。
アジア選抜対欧州選抜の対抗戦として06年に産声を上げた「ザ・ロイヤルトロフィ」は今年で7回目を迎える。だが、この8月に14年3月から新たなアジア選抜対欧州選抜の対抗戦「ユーラシアカップ(EurAsia Cup)」が2年に1度、1回目はマレーシアを舞台として開催されることが発表されたのだ。
この新規大会は、欧州ツアーとアジアンツアーが認可する一方で、「ザ・ロイヤルトロフィ」からは両ツアーとも10年大会以降は撤退している。現在では、JGTOがツアーとしては唯一認可している状態なのだ。
欧州選抜のキャプテン、ホセ・マリア・オラサバルは大会前の会見で目を見開いた。「欧州ツアーにはもっとこの試合(ザ・ロイヤルトロフィ)に関わって欲しい。なぜなら、この大会には大いなる未来があるのだから」。
関係者によると、大会の放映権やイベント運営についてコントロールしたい「ザ・ロイヤルトロフィ」主催者側と、欧州・アジアの両ツアーの折り合いがつかないことで、彼ら主導の別イベントの立ち上げに繋がっていったのだという。
来年も中国・ドラゴンレイクGCで開催されることが決まっている「ザ・ロイヤルトロフィ」の運営には、JGTOの他、中国ゴルフ協会が深く関わっている。中国ゴルフ協会はワンアジアツアーとも関係が深い。アジアを舞台とした各ツアーの勢力争いが、競合する同主旨別大会を生む結果となって現れたのだ。
この2つの大会がどうなっていくのか現時点で予測することは難しいが、「ザ・ロイヤルトロフィ」には忘れてはならない遺産がある。それは、大会創設に燃えたセベ・バレステロスの情熱だ。
第2回大会から第6回大会まで、5年連続でアジア選抜のキャプテンを務め、現在は青木功と共に選手委員会のメンバーをこなす尾崎直道は、セベの思いを代弁する。「彼はマッチプレーがすごく好きだったし、ライダーカップでアメリカを倒すということに、メジャーで優勝することと同じくらいのスピリットで挑んでいた。ゴルフの面白さがマッチプレーにあるということ、それにチームとしての戦いがこんなに面白いものだということを教えようとしたんじゃないかな」。ライダーカップのような大会をアジア人にも経験してもらいたい。それは面白さだけではなく、選手の成長も促すものだから。尾崎は続ける。「優勝争いをしている時はマッチプレーの心理と特に似ているよね。マッチプレーに強い人間が最後には強くなる」。
今年行われた「プレジデンツカップ」に出場したアジア人は松山英樹ただ1人だった。我々アジア勢にはまだ成長の余地が残されているし、チーム戦のマッチプレーというフォーマットで戦う意義も、決して小さなものではないはずだ。(中国・広州市/今岡涼太)