男子ゴルフ世界ランクが制度変更 日本ツアーを襲う危機の正体
男子ゴルフの公式世界ランキングは2022年8月から、新たな仕組みで算出される。各大会に付与されるポイントは原則として、出場選手層の強さと厚さのみに基づいて決まるようになる。
選手の実力を忖度(そんたく)なく反映するのが狙いだが、欧米のトップツアーと、その他のツアーで得られるポイントの差が広がるのは必至だ。日本ツアーへの影響も大きい。
履けなくなる“下駄”
各大会の付与ポイントは新たに導入するストロークゲインド・ワールドレーティング(SGWR)という指標から導かれる。世界ランキングは、各選手が過去2年で得た合計ポイントを出場試合数で割った数値の大きさの順となる。
これまで各国のトップツアーには優勝者が各大会で得る“最低のポイント”が設定されていた。例えば日本ツアーはオーストラリアなどと同じ16pt(ナショナルオープンの日本オープンは32pt)で、世界ランク200位以内の選手数に応じてポイントが上乗せされてきた。
新システムではこの最低ポイントが撤廃(4大メジャーは100pt、ザ・プレーヤーズ選手権は80ptで固定)され、出場する全選手のレベル(フィールドレーティング)と各大会での成績やスコアにより即したものになる。
日本ゴルフツアー機構(JGTO)の関係者によると、試算では現状の選手層が維持された場合、新システムで日本ツアーは「優勝者のポイントが16(以上)だったのが、7から8、9といったところになる」と分析しているという。
「各大会の上位選手(日本では20位以内が目安)だけが得ていたポイントが、予選通過選手に付与されるのは大きな改善点」と言うものの、好成績を残した選手の獲得ポイントが半減する未来に危機感を募らせる。
焦燥の本質は?
欧米ツアー進出を考える選手は日本ツアーを主戦場にしてランキングを上げ、メジャーやWGC、スポット参戦した海外での試合で、突出した結果を残してシード権を得るプランを「最短ルート」として頭に描いてきた。
松山英樹をはじめ、PGAツアーで近年プレーした石川遼、岩田寛、小平智もその道をたどった。谷原秀人、宮里優作は同じようにして欧州ツアーの扉をたたいた。
だが、新システムでは日本だけでプレーしていると、ランキング上位に食い込むことは難しくなると予想される。海外ツアー定着を望む選手は今後、PGAツアーであれば下部コーンフェリーツアーの予選会、欧州ツアーであれば川村昌弘のようにレギュラーツアーの予選会を経て、段階的に出場資格をつかむのがスタンダードになり得る。
つまり、将来的に日本ツアーから長期にわたってトップ選手が流出しかねない。また、韓国やオーストラリアをはじめとした海外の優秀な選手に日本が欧米進出への「ステップにならない」とそっぽを向かれてしまえば、さらに選手層が薄くなる恐れがある。
欧米vs.第三極
ランキングシステム変更の背景には、トップ選手が集まるPGAツアーへのポイント偏重を問題視する声の一方で、欧米からは比較的ポイントを得やすい他ツアーに注がれる厳しい視線があった。
2021年に入り、6大ツアーで欧米を除く日本、アジア、南アフリカ、オーストラリアのツアーは水面下で結託して制度の見直しに反対したが、実らなかった。「オーストラリアと南アの代表者をリーダーにして訴えたが、アメリカとヨーロッパに押し切られてしまった感がある」(関係者)
昨今のメジャーやWGCをはじめとするビッグトーナメントは出場資格において、世界ランクの重要度が高い。上位50位の選手はあらゆる試合に参戦できるチャンスがある。日本ツアーは目下「例えば、賞金王にメジャーの出場権を付与してくれるように」といった形で働きかけをしているという。
実際に新方式でのポイント算出は2022年8月8日からで、同14日付のランキングから反映される。米ESPN電子版は2年後の「2024年までは“フルインパクト”はない」としているが、その時点で世界の勢力図は今とは一変する。
準備期間が2年ないし3年“もある”のか、“しかない”のか。ツアーはもとより、海外を目指す選手も決断を迫られる。(編集部・桂川洋一)
■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw