アジアゴルフ界に嫉妬する
アジアンツアーの2011年最終戦「タイランドゴルフ選手権」はリー・ウェストウッド(イングランド)の完全優勝で幕を閉じた。予選ラウンド2日間でツアータイ記録となる通算20アンダーをマークしたウェストウッドの独走が決定的と見られていたが、3日目にマスターズ王者のチャール・シュワルツェル(南アフリカ)が猛追を見せて4打差、この日も一時3打差まで迫るなど、スター選手のビッグプレーに沸いた4日間でもあった。
新規大会として産声を上げた今大会、目玉選手の筆頭といえたロリー・マキロイ(北アイルランド)はデング熱で体調を崩し直前でキャンセルとなってしまったものの、ウェストウッドやシュワルツェルをはじめダレン・クラーク(北アイルランド)、セルヒオ・ガルシア(スペイン)、ジョン・デーリー(米国)といった欧米ツアーを主戦場とするスター選手がエントリー。タイの強い日差しも相まって大会前から華々しい空気が充満していた。
米国、欧州のPGAツアーの合間や一段落した後、数多くのスター選手が環太平洋地域に“出稼ぎ”に出てくるのは毎年恒例のこと。タイガー・ウッズは毎年オーストラリアで試合に臨むし、今週の豪州ツアー・「JBWereマスターズ」にはW賞金王を決めたルーク・ドナルドが出場、イアン・ポールター(ともにイングランド)が優勝を飾った。「全米オープン」を制したマキロイは今年、中国で行われた10月末に「上海マスターズ」で優勝。また「韓国オープン」にも参戦し、同大会では米国の人気者リッキー・ファウラーがプロ初優勝をマークした。
アジア諸国の選手招致は活発だ。確かに日本ツアーでも「三井住友VISA太平洋マスターズ」にシュワルツェルが参戦したが、今季日本ツアーに出場した選手の中で、一時的に世界ランクトップ10に入った選手はシュワルツェルとグレーム・マクドウェル(北アイルランド)だけ。ちなみにマキロイは11月末に来日したが、石川遼とのテレビマッチ収録のため20時間あまりの滞在にとどまった。
選手だけでなく、招致するトーナメントの大きさでも目を引くのは中国だ。上海オープン以外にも「HSBCチャンピオンズ」や「オメガミッションヒルズワールドカップ」がある。また、世界選抜と米国選抜の「ザ・プレジデンツカップ」の2015年大会は韓国。そのプレジデンツカップの会場が決まった際、「ついにあのイベントをアジアに持ってくることに成功した」という言葉を耳にしたが「韓国に持っていかれた」という方が率直な感想だった。
この現状は、やはり選手を呼ぶ上で金銭的な問題が大きい。「日本は不況だから…」という声はもっともだ。しかし、今シーズン終盤、こんな言葉を耳にした。「もしも石川遼が出場しないとなったら、この大会は誰かすごい選手を呼ぼうとするはずですよ」。大会側にとっても、試合を盛り上げるためにはやはり目玉となるスター選手の存在が必要だが、石川は現在、日本ツアーを主戦場としているわけだから、当然莫大な出費も必要ない。ここ数年は石川遼という極めて大きなピースで“十分にペイできる”という考えがあるようだ。
確かに誰が来日しても、最も多くのギャラリーを引き連れるのは石川の組だろう。(タイガーが来たら分からないけど…)。それでも、海外のスーパースターを見る機会はやはり貴重だ。それはギャラリーだけでなく、プレーヤーにも少なからず影響を及ぼすはず。今年日本ツアーで賞金王に輝いたベ・サンムンは韓国オープンを戦った際に、世界トップクラスの招待選手とラウンドをともにして「確かにみんな上手い、だけどミスもあるということが分かった。僕にもチャンスはあるんだと考えられた」と目の前が開けたと話していた。そして最高峰たちの選手が出場する大会には世界ランキングのポイントも多く振り分けられる。世界へ飛び立とうとする選手を実質的にもサポートできる。
アジアで行われる大会に比べ、携帯電話やカメラ撮影のマナーの良さも、やっぱり日本ツアーのギャラリー方が総じて上を行っていると思う。スーパースターを日本でもっと見たくなった。(タイ・バンコク/桂川洋一)
■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw