現役選手を社員採用「モデルケースになればいい」/フットゴルフな人々 vol.4 鳳凰ゴルフ倶楽部
この道はいったいどこにつながっているのだろう? 新スポーツ「フットゴルフ」に魅了された人々の素顔に迫る連載インタビュー第4弾は、趣向を変えてゴルフ場が主役である。東西36ホールを有する鳳凰ゴルフ倶楽部(群馬県太田市、開場1973年)は、かつて国内シニアツアーの舞台にもなったものの、時代の変化には抗えず、2018年に民事再生法が適用された。再建を進める中で、2022年3月に日本フットゴルフ協会の公認コースが新設され、現役の女子フットゴルファーが社員採用されたという。いったい今、鳳凰GCで何が起きているのだろうか?
◆当地でフットゴルフ場を運営するのは、栃木シティFC(サッカー)や栃木ゴールデンブレーブス(野球)もスポンサードする明盛宏産株式会社である。同社の山野井清朗社長に話を聞いた。
―フットゴルフを始めたきっかけを教えてもらえますか?
【山野井清朗社長】フットゴルフという面白いスポーツがあると聞いて、去年の夏、セブンハンドレッドクラブ(栃木)まで体験に行ったんです。初めてプレーをしたら、まあ楽しい。一緒にやった人もみんな「こんな面白いものはない」っていうのに、なぜもっと広がらないんだと思いました。それで、改修工事で閉鎖している東インコースの一部を使って実験的に始めたのですが、これならお客さんを呼べるということで、すぐに本腰を入れた営業を開始しました。
―3月末にはジャパンツアーも開催されましたが、手応えはいかがでしたか?
3月1日にプレオープンしたら、大会もあるということで、多くの選手がプレーに来てくれたんです。3月の来場者は大会を別にして230人ほど。大会も約60人が参加したので、月の売り上げは200万円弱ありました。(日本フットゴルフ)協会からも、オープン初月としては「過去最高じゃないか」と言われました。4月は少し落ちたのですが、5月になってまた盛り返しています。
選手が仲間を連れてきてくれるパターンが多いのですが、選手たちの人柄が素晴らしいので、応援したくなっちゃいましたね。最初は、敷居が高いゴルフ場に、お客さんに気軽に来てもらいたくて始めたのですが、今はむしろ、どうしたらフットゴルフに人を集められるかを考えるようになっています。
―現役フットゴルファーの阿久津里奈さんを社員採用されましたね。
うちにはフットゴルフ専用のクラブハウスがあるので、常勤で人を置きたいっていうのがありました。協会に相談したら、群馬県出身の阿久津さんを紹介していただいたんです。プレオープン以降、何度かコースに足を運んでもらって、5月1日から正式に社員となりました。負けず嫌いで情熱的な人なので、社員として鳳凰のフットゴルフを盛り上げつつ、選手としても頑張ってほしいですね。
◆小学3年から大学4年までサッカーをプレーしていた阿久津里奈さんは、高崎健康福祉大高崎高3年時にキャプテンとして全国大会に出場した経験もある。しかし、大学まで続けたサッカーは「不完全燃焼だった」と振り返る。
-阿久津さんとフットゴルフの出会いを教えてください。
【阿久津里奈さん】以前からフットゴルフは知っていましたが、「いつかはやってみたい」程度でした。社会人になってマラソンや筋トレに挑戦していたのですが、達成感はあるけれど、楽しさに欠けるなぁと感じていました。そんな昨年6月頃、女子サッカーをやっていた昔のライバルが今も現役で戦っている姿や、ジャニーズ「Snow Man」の舞台を生で観たりして、「自分も人に感動を届けられるように頑張りたい」、「もう一度、世界を目指したい」という気持ちが強くなり、真剣にフットゴルフに取り組もうと決めました。
-フットゴルフ界にはまだ女子選手が少ないですが、当事者としてどう感じていますか?
4月に静岡で行われたジャパンツアーは、参加した女子選手が私ひとりだけで、いろいろ考えさせられました。優勝を目指してやってきたのに、戦うべき相手がいない。もちろん、大会で得たものもあり、経験にもなりましたが、レベルアップのためには競技人口を増やし、競争を高めることが大切だなと実感しました。フットゴルフはたくさん歩いて頭も使うのでダイエットになるし、仲間ができてコミュニケーションの機会も増えるので、女子選手にもぜひ挑戦して欲しい。結婚や出産もあって、肉体的にも経済的にも厳しいとは思うけど、参加選手が少ない今は逆にチャンスでもあると思います!
-明盛宏産の社員として働く新しい環境はいかがですか?
フットゴルフに専念できるし、すごく恵まれていると思います。私は蹴ることは得意ですが、ただ遠くに飛ばせば勝てるスポーツではないので、他の要素をコースで勉強させてもらっています。フットゴルフの盛り上げに女子選手が果たす力は大きいと信じているので、世界を目指して戦うことも、普及にも、全力で取り組みます。人間性も向上させて、誰からも愛されるような選手になって、フットゴルフ界に新しい風を吹かせたいですね。
◆まだ始まったばかりの鳳凰GCでのフットゴルフだが、北関東自動車道の太田強戸スマートICから3分というアクセスの良さや、専用コースがある強み、そしてフットゴルフに関わる人たちの熱意の高さがポテンシャルを感じさせる。山野井社長にこの先のビジョンを聞いた。
【山野井清朗社長】専用コースで常時プレーができますし、駐車場も急遽、ゴルフと分けることにしたんです。やっぱり、ゴルファーが近くにいると、ちょっと騒ぎづらかったりしますからね。うちはゴルファーと完全に導線を分けているので、服装も比較的自由でいいと思っています。Jリーグのサポーターがユニフォームで来てくれたりすることは、非常に好ましいじゃないですか。
太田駅からの送迎も考えていますし、コース改修にはまだ時間が掛かるので、その間にもう少しホールも増やしたいと思っています。将来的にはロッジを作って、食事も温泉も楽しめるような施設にしたいですね。うちではバナナ(※ほうおうバナナとして販売)も作っていますが、そんなフットゴルフ施設は世界初になるでしょうね。
-フットゴルフ普及のために、どんなことを考えていますか?
ゴルフのマスター室前にフットゴルフのカップを埋めて、ゴルフを終えたお客さんに1回で入れたらドリンクをプレゼントっていう企画をやったんです。そうしたら、ほとんどのゴルファーが挑戦して、「楽しい」と言ってくれました。皆さん、やれば楽しいけれど、知らないし、やる場所がないんですね。その敷居をどこまで下げられるか。
先日、栃木ゴールデンブレーブスの寺内崇幸監督がフットゴルフ体験に来てくれて、SNSにアップしたら700人くらいが「いいね」をしてくれたけど、ほとんどの人がフットゴルフを知りませんでした。さくら市(栃木県)のように、我々も太田市と連携して公園にカップを埋めてもらうなどしていきたいと思っています。
-御社は釣り堀も手掛けられていますし、様々な活動を行っているのですね。
当社は砕石業とリサイクル業がメインですが、コロナ禍でもお陰様で売り上げは順調でした。我々は土地が豊富にありますので、3年前にチョウザメ(キャビア)の養殖を始めて、昨年からは、その施設で釣り堀(OyamaWaterPark遊水園)も始めました。これが非常に盛り上がって、連日家族連れであふれかえっています。私は業務では重機にも乗ったりするので、普段あまり見ることのないお客さんや家族の笑顔を見られて、それに感動しちゃいましたね。だから、もっとサービス業をやりたいっていうのも、フットゴルフを始めた理由の一つです。フットゴルフはその中で、一番面白くて、一番伸びる可能性が高いと思っているので、どんどん力を入れていきたいです。
阿久津さんに社員になってもらいましたが、そういうものもひとつのモデルケースになればいいなと思っています。フットゴルフを一流のスポーツにしたいですし、ジャパンツアーもギャラリーでいっぱいにしたい。非常に可能性があると思いますし、こんなチャンスはないと思って取り組んでいます。
(取材・構成/今岡涼太)
◆選手プロフィール
阿久津里奈(あくつ・りな)
SNS:[Twitter] @rina_footgolf [Instagram] @rina_akutsu [Facebook]rina.akutsu.5