米国男子ツアー

LIVとの“抗争”で高まるPGAツアーの財務情報公開リスク/小林至博士のゴルフ余聞

2022/10/28 14:15
PGAツアーのコミッショナー、ジェイ・モナハン氏

米PGAツアーのコミッショナー、ジェイ・モナハン氏の報酬が1420万ドル(現在レートで20億円超)であったことをウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じた。といっても、報酬額は同紙のスクープではなく公開情報である。PGAツアーは国税の優遇措置を受けるNPO法人であるため、役員の報酬を含む財務情報は公開が義務付けられている。同紙の記事の趣旨は税制優遇を受けているNPO法人のコミッショナーを含めた役員が高額の報酬を得ている上に、ツアー所有のプライベートジェットを私的利用しているのは法的、道義的にどうなのか、ということであった。

今回の批判(めいた)記事は、サウジアラビア資本のLIVツアーとの一連の“抗争”が背景にあると思われるが、PGAツアーがNPO法人であることについては、過去にも問題視されたことがある。近いところでは2013年、上院議員がスポーツ団体の税制優遇を禁止する法案を提出した。アメリカのスポーツ団体はスタジアム・アリーナの建設や運営における税金補助をはじめ、選手年俸を二重に経費計上できたり、既存チームの買収費用は全て経費計上できたりする。よくいえばさすがスポーツ大国の税制優遇が用意されているが、当時、PGAツアーに対しては「なぜNPOなんだ」との指摘がなされた。

このとき、グレッグ・ノーマン(現LIVゴルフCEO)はメディアの質問に対して「PGAツアーにはおカネの流れの透明性を高める必要があると再三申し入れをしてきたが、聞く耳を持たない」と答えている。ちなみに、であるが、ノーマンはこのインタビューの際、その15年前(1998年)にPGAツアーが、自身が発案したワールドツアー構想をつぶしたことに対して強いわだかまりを持っていることを吐露しており、改めてその執念深さには恐れ入る次第である。

アメリカのプロスポーツ団体が上述のような様々な優遇措置の恩恵を受けている背景には「見るスポーツ」が文化として根付いており、公共性が国民に認知されているからでもあるが、それは政治における多数派を確保するということでもある。どの団体もロビイストを雇い、政治や行政に対して一定の影響力を保持している。最も熱心なのが、独禁法の適用除外を受けているMLBで、毎年2億円を連邦政府・連邦議会に対するロビー活動に投じている。

PGAツアーのロビー費用は例年5000万円程度とされるが、LIVゴルフとの抗争が法廷闘争に発展している中、増加するだろう。法人形態についても見直しを検討した方がいいかもしれない。非営利団体(NPO)であることにより享受できるメリットは公共性、税制優遇、大会運営をボランティアで賄う大義名分が立つなど様々にあるが、今後は財務情報を公開することによるリスクは高まることが予想される。インターネット時代が進み、情報公開が広範に及ぶ中、MLBは2007年、NFLは2015年にNPOのステータスを放棄している。(小林至・桜美林大学教授)