アメリカの大学ゴルフ部に精鋭が集う理由とは
8月下旬から9月上旬まで、2週間ほど渡米した。主たる目的は、アメリカの大学スポーツの調査研究である。今春3月に、大学スポーツの中央統括団体として一般社団法人大学スポーツ協会(UNIVAS)が発足。その制度設計から設立まで縁あって深く関わり、発足後も理事を拝命している。UNIVASがモデルとしたのは、アメリカの大学の中央統括団体NCAAだ。そのNCAAの本部のあるインディアナポリスと、友人が勤務している縁でミシガン州立大学(MSU)などを訪問した。
ゴルフの源流はスコットランドだが、本場はアメリカであるのは周知の通り。頂点であるプロゴルフのレベルはもちろん、ゴルフ場の数も16752で世界の43%に相当する。ちなみに2位はわが日本で、その数3169である(R&A調査)。日本の5倍以上のゴルフコースが存在するアメリカは、大学ゴルフも盛んで、プロツアーと同様、世界中の有望選手が切磋琢磨する場だ。
現在の世界ランキング上位20人のうち、アメリカの大学ゴルフ部の出身者でないのは、ロリー・マキロイ(北アイルランド)とジャスティン・ローズ(イングランド)の2人だけ。1位のブルックス・ケプカやタイガー・ウッズらアメリカ人選手はもちろんのこと、ジョン・ラーム(スペイン)、フランチェスコ・モリナリ(イタリア)、アダム・スコット(オーストラリア)も、アメリカの大学ゴルフ部の出身者である。
PGAツアーの有望選手を輩出する大学となると、例外なく専用コースを所有している。わたしが視察したMSUもそのひとつで、豪華かつ難易度の高いコースを2つ所有。加えて、6億円かけて新築されたクラブハウスに は、最新のテクノロジー満載のシミュレーターに、ピッチ・パット、バンカーの訓練施設が備わっており、最高気温が氷点下というミシガン州中部の厳しい冬場でも腕を磨くことが可能だ。
当然のことだが、このような恵まれた環境でゴルフが出来るのは選ばれし者だけに与えられる特権で、MSUの場合、部員数は男子9人、女子12人である。NCAA所属大学の運動部は、統括部局(アスレチック・デパートメント=AD)によって一括管理され、MSUのADの予算は約145億円。その原資はNCAA1部所属の大学がどこもそうであるようにアメフトと男子バスケの興行収入で、予算のほとんどはこの2つに振り分けられる。ちなみにMSUのアメフト部、男子バスケ部の監督の年俸はいずれも6億円超である。
一方、ゴルフ部は赤字事業だ。それでもMSUでいえば、女子が団体戦で全米チャンピオンに輝くなど歴史と伝統があり、支援者もいる(新設クラブハウスもOB篤志家の寄付)。そもそもNCAAの規則で1部所属の大学は最低でも14の運動部をNCAA基準で運営しなければならない。ゴルフ部も施設、用具、遠征費、食事などを含めた競技に関わる全ての費用を大学が負担することになるから、予算の関係上、人数を絞り込まざるを得ないのだ。
またNCAA1部所属の大学が、学生選手に出す奨学金の上限額は各競技で定められている。アメリカの大学の学費は非常に高く、私大となると、学費だけで500万円はくだらない。MSUのような州立大学でも、州民なら年間160万円だが、州外になると440万円にのぼる。ゴルフ部の奨学金枠は男子4.5人分、女子は6人分が上限で、これも人数が絞り込まれる要因だ。このような予算と規則の厳しい制約のもと、高い競技力を保つために選び抜かれた精鋭が集うのがアメリカの大学ゴルフなのである。(小林至・江戸川大学教授)