反発係数でUSGAとR&Aがついに合意
ゴルフクラブのスプリング効果に関するルールをめぐって、3年半にわたって膠着状態に陥っていたUSGA(全米ゴルフ協会)とR&A(ロイヤルアンドエンシェント)の話し合いがようやく妥協点に達し、5月9日に共同声明が発表された。
急進的なのか、或いは一時しのぎと言おうか、これまでの伝統を破って二つの基準が存在することになる。一つは競技レベルのプレーヤーたちのためのルールであり、もう一つは一般向けのルールである。2008年までという期限付き措置であるが、これでスプリング効果を規制するUSGAの基準を超えた「ホット」なドライバーをつくっているメーカーが、今後5年間はアメリカ国内でも「非公認」というタグをつけないで売ることができるようになったわけである。USGAとR&Aの合意事項は次の3点。
(1)2003年1月1日以降、ドライバーのフェースの反発係数は全世界的に0.860を上限に設定される。USGAは1998年の11月に0.830という上限を設定していたが、R&Aは基準を設けていなかった。そのため、たとえば全米オープンでは使用禁止のドライバーが全英オープンでは使用できるというように、USPGAツアーを含めUSGAのルールが支配しているトーナメントでは使えないクラブが、R&Aのルールを採用している競技会では使われているという事態を生んでいた。
(2)同様に2003年1月1日以降、世界の主要なプロツアーのプレーヤーに対しては、反発係数の上限が0.830という特別な競技上の条件(condition of play)が適用される。欧州ツアーや日本ツアーをはじめ、各ツアーの代表はすでにこの0.830上限に合意している。
(3)今回の妥協点として3つめは、すべてのゴルファーに適用される唯一の基準を設定して2008年1月1日に発効させることである。その時点で反発係数が0.830を超えるドライバーはすべて使用不可となる。その間、アマチュアは高反発ドライバーを使って試合に出たり、ハンディキャップを取得することを許されるが、ルールに従うならば5年後に自分のバッグから引き抜かなくてはならない。USGAのデビッド・フェイは言う。
「この点が妥協の産物です。両者とも歩み寄って合意に達した。今回の目的は用具に関するルールを全世界的に統一することだったのですから」
USGAはアメリカとメキシコを統轄し、残る世界はR&Aの管轄となっている。カナダ はUSGAルールを採用することが多く、反発係数の件でもそうだった。妥協後の発表では「高い競技レベルの試合」における高反発ドライバーの使用を制限する競技条件が、全米オープンや全英オープンのみならずUSGAとR&Aのほかの選手権にも当てはめられるのかどうかについては明らかにされていない。5月9日の発表ではただ全米オープンと全英オープンの二つのメジャーに言及されたのみであった。デビッド・フェイは、残る12のアメリカ国内の選手権試合についても結論を急ぐことを約束した。
同様に不確定なのはカレッジゴルフとプロの下部ツアーに5年間の高反発ドライバーの使用が認められるのかどうかだ。アマチュアの試合も含めて、あらゆるトーナメントの開催組織は自分たちの裁量で0.830条件を適用することが可能である。
ところで、いったい0.830と0.860でドライバーの飛距離にどれほどの差が出るのだろうか。キャロウェイ社のCEO(最高経営責任者)、ロン・ドレイピュウによれば反発係数が0.10違えば約3ヤードの差が出るとのことである。そうなると0.830と0.860で約9ヤードの差となる。
とは言え、他に考慮しなければならない要素がある。たとえば、高反発ドライバーで打点が中心から外れた場合はかえって飛距離が落ちる。また、高反発ドライバーは耐久性に難があり、ヘッドスピードの速いゴルファーが使い込むことには耐えられない。USGAの非公認リストに載っている(0.830を超えている)ドライバーは60を超える。しかし、フェイによるとこれまでのUSGAのテストでは0.860を超えるようなドライバーはまだ出ていないという。USGAは特定の製品の反発係数を公表することはないが、外部機関の測定ではキャロウェイのERCII がちょうど0.860だそうだ。
USGAとR&Aの合意が発表されたときに商用でオレゴン州ポートランドにいたキャロウェイのドレイピュウは、とても感激していた。
「きょうはゴルフにとって記念すべき日です。二つの組織が歩調を合わせたことをキャロウェイ社は大いに歓迎する。妥協するということにおいては、自分の望みをすべて満たせる者は存在しません。その点で両者ともに勇気が必要だったろうと思います。 基本的には両者ともにルールの違いによってゴルフというゲームが損なわれてしまっていると感じていて、決断したのでしょう」
USGAとR&Aにはともに、この1年半の間、妥協点を探るべく協議してきた小委員会があるのだが、歩み寄ったということで第一に注目されるのは両者の会長であるリード・マッケンジーとピーター・ドーソンであろう。ドレイピュウは次のように言い、そしてある約束をした。
「リードは飛距離に関しての自分の考えを腹蔵なく言い、ゴルフは一つのゲームであるべきであるということ、そして過去から受け継がれてきた価値が重要であるということを率直に語っていました。そして問題について自らの知性が活かされる道を見いだしたのです。今回の合意に至るには、実質的で思慮分別ある考え方のできる二人の人物が必要だった。それがリードとピーターです」
「私は今回の解決策が気に入りました。私のいる限りキャロウェイ社が新たに非公認ドライバーを市場に出すことはないでしょう」
キャロウェイはUSGAの0.830上限を超えている非公認ドライバー、ERCとERCIIの二つをすでに世に出している。2001年には非難の声もある中で、アーノルド・パーマーをスポークスパーソンに起用してアメリカ国内でのERC IIの販売を開始した。
「非公認クラブを売るということで、去年はアメリカのPGAプロの皆さんにコース上で手ひどくやられました。あれは応えました。いまこそ私たちには見返りがもたらされたということです」
キャロウェイがすでにアメリカ国内で販売してきているのはERCIIだけではなく、ERCフェアウェイウッドのラインも投入している。また、いまのところアメリカ以外の国でのみ販売されているが、テーラーメイドやタイトリストといった大手メーカーもUSGAの0.830上限を超えるドライバーを生産している。現時点でUSGAの現行基準を超えたドライバーは生産していないメーカーは多いが、これから反発係数0.860へのアプローチがにわかに始まるだろう。
クリーブランドのシニア・デザイナーのドン・ウッドは、独自の高反発ドライバーの開発が大詰めの段階に入ったと目されている。
「私はいまの状態で満足です。2008年以降のことを考えてみれば、みんな0.830に戻るわけですが、飛距離は反発係数でもたらされるのではなくて、ゴルファーとそのクラブの相性がいいことで実現するのです。そのことこそ、現在、渦中にある軍備拡大競争で得られる智恵であって、私たちはもっと洗練されたレベルへと進んでいくのでしょう」
この先の見通しとして、5月9日の発表によってUSGAとR&Aが用具に関する規定を改定し、新たに構築する枠組みができあがったということになる。ゴルフボールについては、ルールを定める二つの組織は現行基準をそのままにしておきたいという考えをあらためて述べていた。ただしテストの方法については随時刷新していくことになる。
2008年になってボールがいま以上に飛ぶようになり、一方でドライバーが現在の0.830のものと同等にしか飛ばないということなら、USGAとR&Aが仮に独自ルールを設定するとしても用具に関する規定は落ち着くところに落ち着いて、一本化したのと同様になるかもしれない。
反発係数の計測法に関してもヘッド重量による違いなど、考慮しなければならない変数はある。いまのところ基礎データはリバウンドテストである。つまり、固定せずにおいたシャフトなしのヘッドのフェースに、あるスピードでボールをぶつけて、インパクト直前のボールのスピードと跳ね返った直後のスピードを比較するというもの。0.860というのは、クラブヘッドの重量による補正を加えて算出する数値であり、直後のスピードが直前の0.860だということである。USGAとしては将来的により簡易的な計測方法を導入したいと考えているとデビッド・フェイは語った。
BY JAMES ACHENBACH (GW)