二度とそろわないキャスト 2019年ベストショット3選【今井暖】

2019/12/27 17:55

2019年も、緑の芝の上でさまざまなドラマが生まれた。光と影、風を感じながら、フォトグラファーたちは二度と繰り返されることのない瞬間を切り取ってきた。GDOとともに国内外を渡り歩いたプロフェッショナルが選んだ今年の3枚。第3回は今井暖カメラマン編。

<全米オープン 2日目 松山英樹>

ファインダーの中の登場人物はいつまでもそこにはいてくれない

写真が持つ能力の一つは二度と訪れない「今」という時を止められることだ。フィルムと違って目に見えないデジタルデータがすっ飛ばない限り。大げさな言い方をすれば「今」を永遠に残すことができるシロモノである。

僕が選んだ写真、一枚目はペブルビーチGLで行われた第119回全米オープンでの1シーンだ。自身初の海外メジャー撮影ということもあり、大舞台で良くも悪くも思いっきり空回っていたのが思い出される。

そんな中でもこのシーンでは、ファインダーの中に出たり入ったりしてくる色々なモノを冷静に観察できていた。ファインダーの中の登場人物はいつまでもそこにはいてくれないし、ましてや希望の位置には来てくれない。もう少しで太陽も味方してくれそうな状況。そうこうしているうちやって来た「今」。太陽を待ってはいられない。

この写真に登場してくれたキャストがそろうことはおそらく二度とないが、それ以上のシーンにこの先出会える可能性もココにはある。そんな未来の「今」を楽しみに待ちたい。

<ZOZOチャンピオンシップ 最終日 タイガー・ウッズ>

これは通過点であり、次の目標に向かってのスタートに過ぎない

年の瀬。2019年を振り返ると、ヒットチャートを賑わせたいろいろなメロディーや詩が思い出される。僕が選んだ二枚目は立場は違えどそれぞれ大きな「宿命」を背負った2人の写真。

長い年月をかけてそれぞれのミッションを完遂し、ようやく現れた晴れやかな笑顔。このグリーン上にたどり着くまでに色々な壁に立ち向かって来たことは容易に想像ができる。この1週間だけでも台風、大雨、水没、無観客など色々なものが彼らの前に立ちはだかった。しかし彼らは負けなかった。いや、勝った。

彼らにとってこれは通過点であり、次の目標に向かってのスタートに過ぎない。新しい一歩を踏み出すのにはエネルギーが必要だし、悲しい哉、それを妨げようとするものも現れる。ただ、この笑顔を見ているとそれすらも楽しんでしまうような気がする。これからも魂の限り暴れ続けてくれることだろう。

<伊藤園レディスゴルフトーナメント 最終日 大江香織>

アスリートの引き際はその選手を端的に表す

想像は見事に覆された。史上初の日本開催となったPGAツアー「ZOZOチャンピオンシップ」でジェットコースターのような1週間を終え、2019年自身のツアー最終戦「伊藤園レディス」の撮影に来たのだが、シーズン終盤ということもあり色付いたゴルフ場と晩秋の光が選手たちのドラマを彩る。三枚目は偶然にも今年最後に撮った一枚。

一人の女子プロゴルファーがこの試合を最後に一線を退く決意をした。29歳の大江香織。アスリートの引き際は、その選手の生き様を端的に表す。最終日最終組にもかかわらず、彼女らしく淡々と、そして力強く一打一打を刻んだ。迎えた18番。ギャラリーの拍手に、出迎えた仲間の涙に彼女らしい笑顔で応えた。

優勝セレモニーを終えクラブハウスに引き揚げようとすると、ギャラリーのサインに応じる彼女の姿があった。その脇にはここまで一緒に歩んで来た相棒が夕日を受けて佇んでいる。世代交代の波が押し寄せる女子ツアー。躍動する「黄金」と「プラチナ」にはスポットライトが、表舞台に別れを告げまた新たな道を進もうとするものにはこういうライトがよく似合う。