トーマスの7打差大逆転は“人生最高のボギー”から始まった【進藤大典キャディ解説】
ジャスティン・トーマスが2017年大会以来となる「全米プロゴルフ選手権」2勝目を飾りました。オクラホマ州サザンヒルズCCでは過去7回メジャーが開催され、7回とも54ホール終了時点で首位に立った選手が優勝。それを打ち破る7打差からの大逆転劇。1978年のジョン・マハフィーに並ぶ大会レコードでもありました。
トーマスが優勝した17年大会、僕は松山英樹選手のキャディとして最終日同組でプレーを見ていました。それまでも幾度となく競り合う機会があった“ライバル”。タイガー・ウッズやロリー・マキロイ(北アイルランド)は一挙手一投足からにじみ出る圧倒的な自信が、こちらにプレッシャーを与えてくるような雰囲気すらありました。当時の彼には2人のような“威圧感”こそなかったものの、どんな場面でも振り切れる思い切りの良さが印象的。強靭なメンタルを垣間見ました。
重圧がかかる場面でも絶対に弱気にならない―。ここでいう“弱気にならない”とは、逃げないという意味よりも「常に自分を信じて諦めない」「物事を前向きにとらえて好転させられる力」といった表現が近いかもしれません。今回の全米プロ最終日もそんな場面がありました。
前半6番(パー3)で5番アイアンのティショットが、まさかのシャンク。大きく右にミスしましたが、ショートホールを横切る小川に入らなかったことをプラスにとらえたといいます。なんとか3打目でグリーンに乗せ、5.5mを沈める「人生最高のボギー」で踏みとどまりました。
真骨頂はここから。続く7番は492ydと距離のあるパー4で、最終日も平均スコア「4.320」と2番目に難しいホール。セカンドは210ydが残り、再び5番アイアンを手にすることになったのです。左から右へ傾斜するグリーンの右側には、やはり小川が走る緊迫のシチュエーション。わずか20分ほど前に起きたミスの記憶も鮮明に残っている中、同じクラブでピンそば3m弱に絡めるスーパーショットを放ってみせました。バーディパットが外れても、サンデーバックナインへ望みをつなぐ大きな一打となったことは間違いないでしょう。
パー5の13番、短いパー4の15番とチャンスを獲れなかった後には、14番(パー3)と16番ですぐにピンチが訪れるのですから、ゴルフというのは不思議なもの。その2ホールをいずれもバンカーからしのぎ、17番でバーディ。結果的にこれがプレーオフ行きを決める形となりました。ウッズと特に親交が深いことで知られるトーマス。勢いのあるウィル・ザラトリスに気迫で勝ち切ったプレーオフを含め、最終日の戦いは往年のレジェンドをほうふつさせる力強いプレーだったと思います。
昨年の全米プロでメジャー史上最年長優勝を飾ったのがフィル・ミケルソン。今回、トーマスをサポートしたキャディの“ボーンズ”ことジム・マッケイさんは、かつて25年にわたってミケルソンとコンビを組んでいました。かつてのボスであるミケルソンがディフェンディングでありながら、自らの発言を発端とする騒動で欠場したメジャーを、トーマスとともに制する。数奇な巡り合わせも含め、最後まで目の離せない熱戦でした。(解説・進藤大典)