2021年 ツアー選手権

【進藤キャディ解説】強靭メンタルでつかんだ16億円 カントレーが乗り越えてきたモノ

2021/09/08 07:00
かつてのスーパーアマチュアが苦難を乗り越えて頂点に立った

メジャー6試合を含め50試合が開催されたPGAツアーの“スーパーシーズン”は、パトリック・カントレーが年間王者に輝き、ビッグボーナス1500万ドル(約16億4000万円)を獲得して幕を閉じました。

初日10アンダー首位スタートというポイントランキング1位のアドバンテージは、裏を返せばプレッシャーでもあります。その重圧をものともせず、トップを守り切る見事な完全優勝でした。

プレーオフシリーズ第2戦「BMW選手権」からの2連勝の要因は、さえわたっていたパッティングと強靭なメンタルでしょう。

ブライソン・デシャンボーと激闘を演じた前週に続き、最終戦は世界ランク1位ジョン・ラーム(スペイン)との一騎打ち。わずか1打のリードで最終ホールを迎えるしびれる展開でありながら、終始落ち着いたプレーには見ていて怖さに近いものを感じました。ピンチを切り抜けるパッティングは全盛期のタイガー・ウッズを彷彿とさせる勝負強さ。付け入るスキが見当たりませんでしたね。

最終18番、6Iのスーパーショットで勝負を決めた

マネジメントも巧みで鉄壁。72ホール目、ラームがピンに向かって一直線に飛ぶ素晴らしい一打でイーグルチャンスにつけた直後、カントレーのセカンドがすごかった。左に外せば、まず寄らない左ピン。右に逃げればバンカーの餌食です。ピンの右にアライメントをとり、そのバンカーの上に打ってグリーンまで届かせ、3.5mのイーグルチャンスを演出。勝利を確実にしました。冷静かつ勇気にあふれたショットは、まさに鳥肌モノでした。

松山英樹選手と同学年に当たるカントレーはアマチュア時代からその名をとどろかせてきました。世界アマチュアランク1位に長く君臨し、2011年「全米オープン」、12年「マスターズ」でローアマを獲得。将来を約束されていたはずのキャリアはPGAツアーのルーキーイヤーだった13年に一変します。

テキサス州コロニアルCCで行われた「クラウンプラザインビテーショナル」の第2ラウンド直前、「背中をナイフで刺されたような痛み」が走って棄権。背骨の疲労骨折で2年以上試合から離れる苦しみを乗り越える過程で、16年には親友であり、キャディでもあったクリス・ロスさんが目の前でひき逃げ事故にあって亡くなるという悲しみも味わいました。

「成長していくにつれてゴルフもうまくなり、人生もどんどん良くなっていくような気がしていた。しかし、その後に最悪の事態に陥ったんだ。しばらくふさぎ込んだ時期もあったけど、あの暗黒のようなどん底の日々を経験したことで、僕はより良い人間になれたと思う」

マット・ミニスター・キャディとのコンビで栄冠を手にした

復帰した17年にわずか12試合の出場で「ツアー選手権」の扉をこじ開け、ついにたどり着いた年間王者の頂。心が折れてしまってもおかしくない、苦難に満ちた時間を経てカントレーのメンタルは驚くほどタフになりました。

最後にキャディ目線で現在のカントレーの相棒のことも少しだけ。マット・ミニスターさんは以前ベ・サンムンのキャディを務め、僕も2015年に韓国で行われた「プレジデンツカップ」で一緒に世界選抜チームとして戦ったことがあります。

ホームの利を生かして米国選抜相手に優勢の滑り出しだった中、地元開催のプレッシャーからか、肝心のサンムンがいまひとつピリッとしない。そんなときに「wake up Sang-Moon!」と絶妙なタイミングで発破をかけ、選手の気持ちを盛り上げていました。

キャディとしてはしっかり選手をリードするタイプですが、基本的には物静かでクレバーという点でカントレーにも通ずるところがあるミニスターさん。新型コロナウイルス陽性となった影響でプレーオフシリーズ第2戦からバッグを担いで2連勝。非常に強力なコンビだったことも見逃せません。(解説・進藤大典)

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