2021年 AT&Tペブルビーチプロアマ

“一匹狼”ダニエル・バーガーを変えたケガ

2021/02/16 09:20
圧巻のイーグルフィニッシュに力強く拳を握った(Ezra Shaw/Getty Images)

朝からすごいショットを見ました。「AT&Tペブルビーチプロアマ」を制したダニエル・バーガー。最終18番(パー5)は前日OBでダブルボギーをたたいたホールでした。加えて最終組の1組前をプレーし、マーベリック・マクネリと並ぶトップタイというシチュエーション。想像を絶するプレッシャーがかかっていたはずです。

左サイドに広がる海を避けようにも、狭いフェアウェイの右サイドにそびえる1本の木が厄介なポイント。実際、最終組のトム・ホジーも、この木の枝に引っ掛かったボールを見つけられずに紛失球で打ち直していましたね。美しい景色が広がるペブルビーチですが、ティイングエリアに立つと、映像からはわからない威圧感に襲われるのです。

前日の悪夢、そして優勝争いの重圧をねじ伏せてフェアウェイを捉え、左ピンに対しても右へ逃げることなく2オン。イーグルパットまで決めきる、圧巻のフィニッシュでした。

大会3日目に最終組で回ったスピースらと同じ2011年高校卒業組(Harry How/Getty Images)

PGAツアーの新人王に輝き、2016、17年と「フェデックスセントジュードクラシック」を連覇。同学年のスタープレーヤー、ジョーダン・スピースジャスティン・トーマスほどの派手さはなくても、順調にキャリアを積み重ねてきました。

当時の印象は“一匹狼”。コースを離れても仲がいいスピースとトーマスのように誰かと群れることもありませんでしたし、神経質な性格ゆえにほかの選手と衝突することもありました。いまだから白状しますが、僕もどちらかといえば苦手なタイプでした(バーガー選手、ごめんなさい!)。

左手首のケガに悩まされ、ポイントランキング131位に沈んだ18―19年シーズンを境にプレー面で明らかな進化が見えます。

本人の言葉を借りれば、「以前の自分は調子に乗ってゴルフをなめていた部分があった」「ゴルフが好きだと思ったことは一度もなかった。(故障で)休まざるを得なくなったら、ゴルフができる幸せを実感した」

コロナ禍中断後の米ツアー再開戦、20年6月「チャールズ・シュワブチャレンジ」でモリカワをプレーオフで下したバーガー(Ronald Martinez/Getty Images)

19年の途中からスピースと同じキャメロン・マコーミックさんに師事。「彼がいなければ、今ここにいない。ショートゲームやパッティング、ゴルフ全般の見方が変わった」とコーチへの感謝を口にしていましたが、同じくらいバーガー自身の意識改革も大きかったのではないでしょうか。

昨季はスコアへの貢献度を示す「ストロークゲインド」でショット、アプローチ、パットとすべての項目で35位以内に入り、トータルでは6位とオールラウンダーぶりを発揮。昨シーズンは32ラウンド、今季も26ラウンド連続オーバーパーなしとツアートップの記録を継続中。見違えるレベルの安定感です。

新型コロナによる中断から再開後のPGAツアーで複数回優勝を達成したのはダスティン・ジョンソンジョン・ラーム(スペイン)、コリン・モリカワブライソン・デシャンボー、そしてバーガーの5人しかいません。この間トップ10入りが7試合、予選落ちもわずか2試合。取り組みの変化は、あらゆる数字に成果として表れています。

苦しい時期を乗り越え、メンタル的にも充実の感が漂う27歳。“とがっていた”若手が少しずつ成熟したゴルファーへの階段を上っていく。その過程を楽しみに、これからもバーガーのプレーを追っていきたいと思います。(解説・進藤大典)

2021年 AT&Tペブルビーチプロアマ