仕事は膨大、勝つ喜びは無限大 世界一決定戦メジャーの舞台裏
いよいよ「全米プロゴルフ選手権」が始まります。来月には「全米オープン」、11月には「マスターズ」が開催されますが、この2試合は2020-21年シーズンの試合にカテゴライズされていますから、今季唯一のメジャーということになります。
会場はカリフォルニア州のTPCハーディングパーク。早速ピックアップホールの解説…に移りたいところですが、せっかくの今シーズン1試合限りのメジャートーナメント。まずは僕自身が松山英樹選手のキャディとして目の当たりにしてきた、世界一を決める舞台の裏側を振り返ってみたいと思います。
特にことしは各ツアーが何カ月ものシーズン中断を強いられ、世界中のトッププロが、ここに照準を合わせてきていることでしょう。そして、それはプロキャディも同じこと。この1週間に経験と知識を総動員し、選手のサポートに徹します。
コース設計者、大会側の意図が随所に散りばめられ、当然セッティングの難度は極めて高いので、求められる情報量は膨大です。毎年同じコースで開催される「マスターズ」でも、味わい深い料理のように常に新たな発見がありました。PGAツアーの百戦錬磨のキャディたちでも、メジャーとなればコースの下調べに最低でも2日はかかります。
その中で頂点に立つ選手の相棒たちは別格。タイガー・ウッズの全盛期を担いだスティーブ・ウィリアムズは、「全英オープン」の試合中、朝イチで18ホールをチェックし、情報を最新版にアップデートしてから日々のラウンドに臨んでいました。ジョーダン・スピースを支えるマイケル・グレラーも、「マスターズ」でピン位置が発表されると、真っ先にオーガスタナショナルGC所属のキャディが集まる小屋に走り、助言をもらっていました。
ジェイソン・デイ(オーストラリア)を12歳の頃から指導するコーチでもあったコリン・スワットンには、オークモントCCで開催された2016年「全米オープン」で驚かされました。大会前、2つあるパー5のグリーンまでの距離をそれぞれ隣のホールのフェアウェイから測っていたんです。その方が角度がついてグリーンを縦長に使える分、2オンを狙いやすくなる場合がある、と。
どんな些細な情報も見落とさない徹底ぶりと俯瞰的な目でコースを捉える想像力。だからこそ、状況に応じて柔軟にベストな攻略ルートを導き出す手伝いができる。まさにプロフェッショナルだと感じました。そんな隠れたドラマに思いを馳せながら、世界最高峰の技の競演を楽しむのも、面白いかもしれません。(解説・進藤大典)