石川遼のシャフトが「6S」って!? スピンの入るドローを求めて
◇国内男子◇Sansan KBCオーガスタ 初日(24日)◇芥屋GC(福岡)◇7216yd(パー72)
火曜日(22日)の練習日、石川遼はコースに出ず練習場でひたすら球を打っていた。石川の周りには、キャロウェイのヘッドがいくつかとグラファイトのシャフトがズラーっと並んでいて、まさに“お店を広げている”状態だった。
撮影しているだけでも汗がしたたり落ちる、うだるような暑さだったが、そんな中でも石川は幾度となくドライバーを振り回し、実に楽しそうにシャフトを選んでいた。「もうちょっと先端をカットしてみましょうか。あと0.25インチやってみたらどうですかね」とか「そっちのヘッドにこのシャフトを合わせたらどうなりますかね」と横にいた田中剛コーチやキャロウェイ、グラファイトデザインなどメーカーのスタッフたちと、ああでもないこうでもないと話し合い。ヘッドをカチャカチャと外しては新しいシャフトを付け、それこそ何十通りもある組み合わせの中から“正解”を探すやり取りを繰り返していた。
石川の求める現段階での正解とは「右に出てそれ以上右に行かないで戻ってくる球が出るシャフト」。これまで使ってきたツアーAD「PT」の現状スペックだと、「ちょっと振り遅れると右に出てそのまま右に出る球が出ていた」というのだ。これはドライバーだけの問題ではなく、「もちろんドライバーもすごく大事なんですけど、ロングアイアンとかUTでいいタイミングのスイングを作って、そのスイングにドライバーのスペックを合わせる感じでテストしました。ドライバーでドローの幅が減っていたので、それをちょっと広げたかった」と石川は考えているようだ。
その発言を裏付けるかのように、石川はドライバーを打つ合間に「APEX UW」(UT)を打ってはいいドローボールを連発し、「この感じでドライバーも行きたいんだよな」とつぶやいていた。「ドライバーを今のシャフトで無理に左に行かせようとすると、スイングも変わってタイミングも変わり、そのあとUWを打つとめちゃくちゃ引っかかっちゃうんですよね」ということだ。
石川が火曜日に試していたシャフトは、ツアーADの新しいモデル「VF」や、「TP」、「IZ」など、程度の差こそあれいわゆる手元系(手元がしなるタイプ)のシャフトが並ぶ。どちらかというと石川がいままで使ってきた「PT」より、もっと右に行きそうなシャフトに思えるが、「石川プロからTPのSシャフトを打ってみたいというリクエストがあって、それで今回テストしたんです。TPは以前使っていたことがあって、本人は『“バイーン”っと戻ってきてくれるシャフト』という表現をしていました。フレックスを落としたことも含めて、いいしなり戻りがイメージできたのではないでしょうか」とは、グラファイトデザインのツアー担当・高橋雅也氏。
しっかり目のシャフトに柔らかいスペックを合わせて動きを出そうとしたようで、最終的な“さじ加減”はチップカット(シャフトの先端をカットして硬化させる)で調整という発想だ。「シャフトが硬いと強い球は出ますが、出球はなかなか安定しません。また、スピンも入りづらいので、石川プロが求めるスピンの入ったドローはなかなか打ちづらい。柔らかいシャフトにすることで、いいしなり戻りが生まれ、練習場ではスピン量も2500回転ぐらいで安定していました」(高橋氏)
そして最終的に石川が試合で選んだのは本命だった「TP」の6Sで、先端を0.75インチカットしていた。「Sよりちょっと硬いので“SX”と呼んでいます」とは初日(24日)試合後の石川。それにしてもいくらチップカットしたとはいえ、「6S」というシャフトの表記に驚くが、石川も「ここ10年で一番柔らかいシャフト」と認める。「アマチュア時代はシャフトがしなるモノが好きで、(アマで優勝した)マンシングのときは『R』とか入れていました。高1でプロになったとき『S』になり、その後すぐに『X』になっちゃいました。今まではドライバーの調子が悪い時は柔らかいシャフトは曲がると思っていて、ちゃんと手元をしならせられないと当てられないという雑念がありました」と石川。ヘッドスピードが速いから硬いシャフト、重いシャフトという決めつけは良くないということだ。
もちろん今回のシャフトチェンジは、取り組んでいるスイングの影響が大きい。「今までは手元をタメてつかまえていましたが、(新しいスイングに変えて)今は手元のタメがなくなったので、昔とドローの打ち方が違います。昔はクローズに立ってシャフトも立てて打っていましたが、今はプレーンはフラット、(トウダウンするので)実際にシャフトは横にはしならないと思うけど、横にしならせるような意識で打っています」(石川)。その横しなりをうまく表現してくれたのが、「TP」の6Sということだろう。もちろんヘッドとの相性もあると思うが、新しいシャフトに変えてもボール初速は落ちていないというから、それは試合で使わない手はないだろう。
スイングが変われば道具が変わるのは自然の摂理。プロの一打を求めるこだわりと、それに細かく応えるメーカーのこだわり。そのやり取りの機微(きび)を垣間見た気がする。(福岡県糸島市/服部謙二郎)