「いま僕はココにいます」Vol.139 【特別編】拉致強盗・コロナ陽性から復帰
人は彼のことを“旅人ゴルファー”と呼ぶ。川村昌弘・28歳。2012年のプロデビューから活躍の場は日本だけでなく、ユーラシア大陸全土、そのまた海の向こうにも及ぶ。幼い頃から海外を旅することこそが夢で、キャリアで巡った国と地域の数は実に70に到達。キャディバッグとバックパックで世界を飛び回る渡り鳥の経路を追っていこう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
プロゴルファーの川村昌弘です。
いま僕は、バーミンガムにいます。
ご無沙汰しています。およそ40日ぶりのコラムになります。今週は欧州ツアー(DPワールドツアー)「ベットフレッド英国マスターズ hosted by ダニー・ウィレット」に出場。日本からトルコ・イスタンブールを経由してイングランドに来ました。英国は例によって、どんよりとした天気。ツアーはいよいよ欧州大陸での試合が多くなってきます。
さて、今回はタイトルで驚かれた方もいるかもしれませんが、この春、僕の身に降りかかっていた「人生最大で最悪」ともいえるアクシデントについて記します。警察も関わるれっきとした事件になったこともあり、報告が少し遅くなりました。
少々ハードなストーリーになりますが、ここでひとつお願いです。どうか皆さんには「過度にシリアスに捉えないでいただきたい」ということ! トラブルはすでに昔のこと。僕は無事で、今週も元気にプレーしますので。いつもの旅路にあった“ちょっと”過激なエピソードと思っていただければ幸いです。
◆南アフリカで強盗被害
話は1カ月半前にさかのぼります。3月14日、南アフリカでの月曜日のことでした。僕は男性マネジャー兼キャディとともに、前日までヨハネスブルグ郊外での欧州ツアー「マイゴルフライフオープン」に出場し、3日後に近隣コースで開幕する「ステインシティ選手権」の会場に向けてレンタカーで移動していました。
途中、ヨハネスブルグに近いプレトリアという都市に一度立ち寄り、昼下がりに高速道路に入ったところ、1台の車に追走、並走され「止まれ!」と停止を促されました。僕たちは危険を感じてはいましたが、車のあまりのしつこい追いまわし、クラクションの連続に異変を覚え、路肩にレンタカーを停車しました。
すると車内から出てきた男の2人組が「警察だ」と近づいてきました。僕たちの“交通違反”を主張して、自分たちの車に乗るよう強く指示。“取り調べ”を始めた彼らは難癖をつけ、ずっと抵抗していた男性マネジャーの顔面を殴打しました。彼らは警察官を装って近づいてきた強盗。そのまま僕たちを車で拉致したのです。
◆命の危険 手ぶらで帰国
「目をつぶれ。おとなしくしろ」――。男が運転する車の後部座席で揺られる間、もう1人の男は僕たちの荷物を載せたレンタカーを奪って逃走し、しばらくして、2人は電話で通話を始めました。運転席の男が僕にクレジットカードの暗証番号を大声で聞いてきます。レンタカーを運転していった男が、市街のATMで現金を引き出そうとしているようでした。
相手は拳銃を持っているかもしれない。拘束されたまま、僕は正直に番号を伝えましたが、なかなか下ろせないようで(海外ではよくあること)、次第にいら立つのが分かります。仮に機械が反応しないままであれば、腹いせに殺されるかもしれない。命の危険を感じて僕は「どうにか引き出されてくれ」と願いました。
それからどれだけ走ったでしょうか。「目を開けろ。車は返してやる」と車外に放り出されたのは、人気のない丘の上の墓地。後から確認したところ、解放は車に乗せられてから約4時間後。現金は約150万円が引き出されたようです。
返ってきたレンタカーを確認すると、現金が抜き取られた財布やパスポート、クレジットカードが車内に捨てられていた一方で、ゴルフバッグにバックパック、衣服や旅の道具が全て盗まれていました。あとでレンタカーをお店に返しに行ったら、トランクルームのスペアタイヤまで取られていたのを知りました…。
その後、地元警察や欧州ツアーに連絡し、在南ア日本大使館では現地の邦人に注意喚起する事件になりました。商売道具を失った僕は「ステインシティ選手権」を急きょ欠場。翌日にヨハネスブルグからカタール・ドーハを経由して一時帰国しました。成田空港に到着した際の格好は長袖のTシャツにデニム、足元はサンダル。強盗に遭ったときと同じ姿でした。