<選手名鑑238>ラッセル・ノックス(前編)
■“Crazy Knox”最後の男がテッペンへ!
ラッセル・ノックス(31)はPGAツアー初優勝が世界選手権シリーズという、ビッグサプライズをやってのけた。2015年、中国で開催された「WGC HSBCチャンピオンズ」。最終日は、16アンダーで絶好調のケビン・キスナーと首位発進した。期待が大きかったキスナーはやや乱調だったが、ノックスは終始冷静で安定感あるプレーを続け「68」。通算20アンダーとして、大舞台で競り勝った。PGAツアー初優勝を、世界選手権シリーズで飾った選手は史上6人目。そのうち4人は欧州ツアーの優勝経験者で、欧米両ツアー未勝利の選手の、世界選手権初優勝は02年の「WGC アクセンチュアマッチプレー選手権」で初優勝したケビン・サザーランド以来2人目の快挙だった。
実はノックスは直前まで、「WGC HSBCチャンピオンズ」の出場権がなかった。前週のマレーシアで開催された「CIMBクラシック」を終え、米国に戻る予定だったところ、大会2日目に「繰り上がりで世界選手権に出場できる」との吉報を受けた。しかし問題が発生した。出場を予定していなかったので、中国入国のビザを取得していなかったのだ。クアラルンプールの中国大使館は週末休みで手続きができず。ノックスに代わり、同行していたアンドレア夫人がビザ取得に必要なペーパーワークをこなし、世界選手権に必要なエントリーを代行した。大使館に連絡して事情を説明し、早急にビザ発給を依頼するなど、折衝に奔走。月曜の午後2時にパスポートを手にすることができ、翌火曜日朝に中国入りすることができた。78人目、最後にエントリーを済ませて出場へこぎつけたのだった。
もうひとつ問題が残っていた。キャディのビザ取得が間に合わず、遅れて中国入りすることになった。ここで、また夫人が大活躍したのだ。練習ラウンドでは、夫人がキャディをすることになった。負担軽減のため現地で軽量キャディバックを入手。夫人は気合でこなそうとしたが、バックナインに入り、さすがに「重い」と思わずこぼしたそうだ。「クレイジーな1週間」だったが、運命に導かれるように、最後の登録選手ノックスは、大舞台で頂点に立った。夫人に大感謝だ。そしてスコットランド人初の世界選手権優勝者になった。
この大活躍が評価され、翌16年3月に、スコティッシュ・プレーヤー・オブ・ザ・イヤーに選出。母国セントアンドリュースにあるR&Aで授賞式が行われ、故郷に錦を飾った。ノックスの躍進は続き、8月の「トラベラーズ選手権」で2勝目を挙げ、トッププロの仲間入りを果たした。
■第二の故郷 ジャクソンビル
ノックスにとって今大会の開催地フロリダ州ジャクソンビルは第二の故郷だ。もしかすると永住の地になるかもしれない。彼が生まれ育ったのはスコットランド。大学は米国フロリダ州のジャクソンビル大学へ留学し、07年にビジネス学科を卒業した。卒業後にプロ転向し、欧州ツアーではなく、同地にとどまり米国のミニツアーでキャリアをスタートさせた。
フロリダ州は1年を通し温暖な気候で、ゴルフ場の数も米国最多で、競技開催レベルに充分な素晴らしいコースも多い。ミニツアーも様々な試合が開催され、将来PGAツアーを目指す若手が多く集まり、経験を積み切磋琢磨するには絶好の地だ。特にジャクソンビルはPGAツアーのヘッドクォーターがあり、多くのトッププロも同地を拠点にしている。大学4年間で友人やロマンスも生まれ、離れがたい場所になった。
アンドレア夫人とはビーチに遊びに行った時に知り合った。当時、彼はゴルフ場のカート係として勤務、彼女はプロテニス選手だった。恋人の存在がノックスのジャクソンビル愛をより高めた。スコットランドの両親もリタイア後に息子夫妻の近くに転居し、今は里帰りの必要もなくなった。同地に住む人たちは愛着を込め、我が街を“ジャックス”と呼ぶ。熱狂的ゴルフファンが多く、ジャックス在住のヒーローとなったノックスは、毎年大きな声援を受けながら今大会をプレーしている。
■12番-今年は新名物ホール誕生?
今週はPGAツアーのフラッグシップトーナメントで、“第5のメジャー”と言われる「ザ・プレーヤーズ選手権」。会場のTPCソーグラスは改修が完了し、今年はより戦略的に生まれ変わった。象徴的なホールは12番だ。昨年までは358ydの短いパー4で、2打目のショートアイアンが鍵を握るコンセプトだった。今年は285~320ydにセットし、1オン可能なホールに変更。左サイドには縦長の池があり、1オンに成功すればイーグル、池に打ち込めばダブルボギー以上の危険もあるハイリスク&ハイリターンの魅力的なホールになる。
同コースの最終3ホールは悲喜こもごものドラマを生んできた。16番(パー5)は右に池が広がり2オンが可能、17番(パー3)は池に浮かぶアイランドグリーン、18番(パー4)は恐怖を煽る池がフェアウェイ左サイドに広がる。新たに見どころが加わって、今年の最終盤の緊張は、一層高まるのだ。コースは全体的に飛距離より、ショットの正確性と安定感が求められ、歴代優勝者はビッグヒッターよりショットメーカーが名を連ねる。そして勝負には“忍耐”と“度胸”が不可欠。これまでノックスは3年連続3回出場し、34位、17位、昨年は19位と上位フィニッシュを決めている。コースのマイナーチェンジが行われた今年、3勝目を狙うノックスにとって絶好の機会になる!?