2020年ギア関連のトップストーリー
2020年の特異点を際立たせるための紋切り型のセリフは、既に使い尽くされているので、早速本題に入ろう。ゴルフ用具に関する最大の関心事は、新型コロナウイルスの感染拡大により、ラウンド数が増加しただけではなく、ゴルフ用具が記録破りの売り上げを計上したことだった。実際、業界リサーチ会社のゴルフデータテックによると、第3四半期の売り上げは10億ドルを超え、四半期の売り上げとしては、同社が取引を測定し始めて以降、2番目の数字となったのである。
PGAツアーという狭い用具の世界(とはいえ、影響力は強いのだが)に目を向けてみると、今年は興味深いストーリーラインが目白押しだったが、まずは最も目立ったトピックについて振り返ってみよう。
ブライソン・デシャンボー効果
これこそが2020年のストーリーだった。ブライソン・デシャンボーは適度にフィットした身体の成功したツアープロから、筋骨隆々の異形種へと変貌を遂げた。彼のハードワークと専心は一夜にしてこのゲームの様相を変えただけにとどまらず、他の選手たちはいかにして彼を阻止し、彼と対抗して行くべきかという興味と侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論を巻き起こした。ブライソンの見返りは、「全米オープン」を圧勝するという形での妥当性の証明だった。恐らく、「全米」が彼のようなタイプの選手にとって最も成功を収めがたいメジャーであることに、議論の余地はほとんどないだろう。我々が2000年のタイガー・ウッズで見たように、力はあらゆる形でその強みを誇示するものだが、ウィングドフットではティショットだけでなく、ラフからのショット、そして一度たりともオーバーパーにスコアを落とさずに72ホールを回り切るスタミナという形で、その強みが明らかとなった。
これに応じて、メディアはかつてジュラシックパークで出た「できるが、果たしてやるべきか?」というのと同様の議論を始めた。意見は大きく分かれ、ブランデル・シャンブリーのような識者たちは、これを進化として援護し、他の識者たちはこのゲームのレガシーを破壊すると論じた。誰が正しいのか?それは何とも言えない。ただ、こうした成り行きを見守るのは楽しいものだ。
ブライソンのライバルたちは、異なるアプローチを探った。スピードトレーニング、スクワット、デッドリフト、ゴルフスイングの新境地、そしてもちろんドライバーの長尺シャフト。進取の気性を失うことのないフィル・ミケルソンは、ビッグネーム第一号としてキャロウェイの47.5インチにスイッチし、時間を置かずにディラン・フリッテリ、ビクトル・ホブラン、そしてアダム・スコットら、大勢の選手がその後を追った。
これは定着するのか?まだ、何とも言えない。2021年はさらに多くの長尺ドライバーに加え、ドライバー2本のセットアップや、計測器でとんでもない数値をたたき出す選手たちのインスタグラム投稿を目の当たりにすることになるだろう。
テーラーメイドのSIMが席巻
テーラーメイドにとっては大成功の年となった。カールスバッドを拠点とする同社は、メジャー3戦中2勝(コリン・モリカワとダスティン・ジョンソン)を挙げ、フェデックスカッププレーオフ全3試合を制覇し(ジョンソン、ジョン・ラーム、ジョンソン)、フェデックスカップ王者(ジョンソン)を輩出するなど、PGAツアーの舞台でスポットライトの大半を支配したのだが、成功はそれだけにとどまらなかった。とはいえ、他社のメタルウッドが散々だったかというと、決してそういうわけではない。他の製品もそれなりに頑張ったが、SIMの勢いは貨物列車のごとく連綿とツアーからフィッティングスタジオにかけて席巻した。ロックダウンがなければ、ドライバーとしてテーラーメイド史上最高の売り上げを記録していたかもしれなかった。何がそんなに傑出しているのか?初速だ。幅広いプレーヤーに対して、純粋に初速を提供するのである。
藤倉コンポジット ベンタス
メタルウッドのシャフトということになると、シーズン再開以降、藤倉コンポジットのベンタスほどの伸びと反応を得た製品はなかっただろう。ベンタスブラックは複数の有名選手(ロリー・マキロイ、セルヒオ・ガルシア、ダスティン・ジョンソン、ジャスティン・ローズ、トミー・フリートウッド)のクラブに収まっただけでなく、全米のフィッターの間で大ヒットとなったのである。必ずしも両立が簡単ではないスピードと安定感の一体化は、あらゆる会話のなかでシリアスに熟慮すべき事項となった。
各メーカーの勢い
「夜明け前は常に最も暗いものである」。新型コロナウイルスによるロックダウン後のゴルフ業界ほど、この引用がしっくりくるものもないだろう。3月、4月、そして5月にかけて、大多数の用具メーカーはドン底を経験したが、その多くは第3四半期に記録的な売り上げでこれ以上ない高みを見たのである。ある時点では、購買者の不足は懸念材料とならなくなった。不足していたのは在庫の方だったのだ。現時点では在庫も再び補充され、各社はオンラインや販売店で引き続き勢いを見せている。ゴルフ全般は、新型コロナウイルス感染拡大の影響による倦怠に対する救いと位置付けられており、容認されるアクティビティの限定的なメニューの選択肢となった。
フレッド・カプルスが10年ぶりにアイアンを変更
ベルンハルト・ランガーを除くと、ツアーでフレッド・カプルスほど長きにわたって成功の方程式を変えなかった選手はいなかった。2カ月ほど前まで、彼のバッグは10年物のアイアン、12年物の3番ウッド、9年物のハイブリッド、そして2014年製の54度ウェッジで構成されていた。「チャールズ・シュワブ・カップ選手権」を前に、ピンの本社を訪れたことで、その多くが変わった。ピン上級ツアーマネジャーのブラッド・ミラードの多大な助力により、カプルスは新しいピン G425ドライバー、ピン i210 アイアン(3番-P)、新しい2本のピン グライド3.0ウェッジ(54度、58度)をバッグに収めて同社を後にした。これらクラブが今現在もカプルスのバッグに収まっていることを考えると、彼の者の功績はメダル授与に匹敵するといえよう。これまでの実績に基づいて推測すると、カプルスは70代になってもこれらクラブを使い続けていることだろう。
(協力/ GolfWRX, PGATOUR.com)