L.ドナルド 恩師とのタッグ復活で再起を誓う
数週間前、パット・ゴスの電話が鳴った。かけてきた相手はルーク・ドナルド。話の内容は、再びスイングコーチを担当する気があるかということだった。
「(ドナルドからの電話は)予期していなかった。これまで何人かに彼から連絡が来るかと思うかと聞かれたけれど、『そんなことはないだろう』と答えていた」(ゴス)
ゴスはドナルドをノースウェスタン大にリクルートした人物で、1990年代後半からコーチを担当してきた。そして、1年ほど前にドナルドがチャック・クックの指導を受けると決めるまで、その関係は続いていた。クックに師事することを決めたドナルドは、ゴスにショートゲームの指導だけを受けるようになっていった。
そんな教え子からの要請を受けたゴスだったが、結論を出すには数日必要だったという。
15年以上ドナルドを指導してきた彼(ノースウェスタン大時代を含めれば更に長期間)は、再びタッグを組むことに関心があるかどうかを客観的に考え、正しい判断を下す必要があった。
「最終的には、客観的に考えられるわけがないと判断した。ルークとの関係性は感情ありきだし、そういう関係を何年も続けていたから。彼のことを気にかけているという点があまりにも大きかった。われわれは良い友人関係にあって、これまで二人三脚でやってきたからね。それが、われわれの関係性で特別なことなのだと思う」
驚きだったのは、そもそもドナルドがクックに師事した経緯だ。
2013年にメリオンで開催された「全米オープン」でジャスティン・ローズとプレーした際、ドナルドは自分のレベルを上げられるか不安に駆られたという。そこで、ペインスチュワート、トム・カイト、最近ではキーガン・ブラッドリーやジェイソン・ダフナーを指導してきた経験豊富なクックの指導を受けることにした。
ゴスの下では、既に強みとなっていたショートゲーム、バンカーショット、パッティングの指導を受けたが、クックの指導では真逆のことに取り組んだ。筋力を強化し、スイング時には以前よりも手首のローテーションを使わない手法をとった。
昨シーズンのドナルドは酷いシーズンを送ったわけではない。だが、獲得した賞金額は150万ドルを下回り、PGAツアーでのトップ10は、「RBCヘリテージ」での2位を含めて3度のみ。「ライダーカップ」欧州代表からは外れ、思っていたような結果は得られなかった。その結果、クックとの関係に見切りをつけ、ゴスの下に戻ることを希望したのだ。
「自分にとっては大きな変化だったけれど、これまでも新しいことをすぐに習得できるタイプの選手だと思っていたからそうしたまで」と話したドナルドは、クックを雇った時点では世界ランキングでトップ10に入っていたが、今週末の「WGC HSBCチャンピオンズ」時点では36位にまで後退。ドナルドは先週テレグラフ紙の取材に応じ、こう答えている。
「30年以上続けてきたゴルフのDNAを壊すのは難しい。タイガー(ウッズ)のようにスイングを抜本的に変えて、メジャーでさらに勝てるようになる選手もいる。そういう選手を見ると不思議に思うし、実現可能だとは思う。ただ、自分が築いたものを壊して、新たな成功を収められる選手というのは少ない。僕は自分を成功に導いてくれたものを忘れていた。自分の長所ではなく、ウィークポイントにばかり気を取られていた。自分の強みは、150ヤード内の距離だから」
ドナルドの妻ダイアンさんは、夫に関し率直に述べている。
「酷いプレーをするのは最悪。世界ランク1位になって、それからスイングに苦しむのは難しいことね。夫にとっても難しい時期だった。問題を克服しようとして必死に努力していたし、もう少しで突き抜けられる感覚があるとも話していたから。また優勝争いに加われると思っていたようだけれど、結果はついてこなかった」(ドナルドの妻ダイアン)
しかし、ゴスと袂を別ったことで得たものもある。恩師への感謝の気持ちだ。
ダイアンさんは、「(ドナルドとゴスの)関係は良くなると思うわ。しばらく離れていた時間があったから。パットは、ルークにとって指導者以上の存在」と言う。
ドナルド夫妻が2007年にギリシャで結婚式を挙げた際、ゴスの娘が挙式でフラワーガールを務めた。2人の信頼関係は、それほどのもの。だが、どんなに相性の良いカップルであっても、少しの間だけ離れることで得られるものもある。
ゴスは、「私と離れたことで、彼はこれまで一緒に取り組んできたことに対する真の価値を理解し、練習内容の理解度も上がった。自分のプレーがわかるようになったのだろう」と話すが、それは彼にとっても同じだったかもしれない。ドナルドを2011年に世界1位にまで導いたのがショートゲームだったことは紛れもない事実。同年には史上初となるPGAツアーと欧州ツアーの両方で賞金王に輝いた。
今年の秋から再びタッグを組んだゴスは、まず原点に立ち返ることに取り組んだ。
「まずは彼の強みであるパター、ショートゲーム、ウェッジ、150ヤード内のショットを取り戻すことから始めた。この距離からのショットでこそ、彼はほかの選手と大きな違いを生み出せる」。
ドナルドは、ゴスから指導者としての立場以上のものを得られると感じているのかもしれない。そう、妻のダイアンさんは見ている。
「ルークにとってパットは、信頼のおける相談相手でもあるの。ほかの人にはわからないレベルで、パットはルークのことを理解している。私がルークを元気づけようと思って何かを言ったとしても、きっと『パットが言うようには聞こえない』と答えるでしょうから」