ザック・ジョンソン 長距離砲を打ち負かした精密機械
ゴルフの聖地セントアンドリュース・オールドコースで行われた2015年「全英オープン」。大会2日目、3日目の悪天候により27年ぶりに最終ラウンドが月曜日に持ち越された5日間大会を、ザック・ジョンソンが制した。ルイ・ウーストハイゼン(南アフリカ)、マーク・レイシュマン(オーストラリア)との三つどもえのプレーオフを制し、2007年「マスターズ」以来となるメジャー通算2勝目を手にした。
9アンダーの6位タイから3打差を追ったジョンソン。ハイライトは首位に1打ビハインドで迎えた正規の最終18番にあった。9mのバーディパットを鮮やかに流し込み、ひざを折って力強くガッツポーズ。クラブハウスリーダーとしてホールアウトすると、4ホールのストロークプレーとなるプレーオフもスタートの2ホールで5m、7mのバーディチャンスをものにして、逃げ切った。
例年よりもソフトなフェアウェイとグリーン、戦前の優勝予想でも平均300ydの飛距離を誇る選手たちを推す声が多かった。ジョンソンの今季米ツアーでのドライビングディンスタンス部門は全体162位(279.5yd)。今大会も決勝進出の80人のうち60番目だったが、正確なショットとパットがあった。「期待はまったくなかった。僕はただできるすべてのことをやった。それがうまくいったのは本当に運がよかった」。ロングヒッター全盛の時代に、世界屈指の精密機械が頂点に立った。
自らを「地味で控えめ」と評する男は、身の丈に合ったプレーを貫いた。「これはただのゲームなんだと考えれば、プレッシャーからも解放される。僕は物事を大げさにとらえたくはないんだ」。
史上79人目のメジャー複数回優勝者は、14人目のマスターズと全英を制したプレーヤーとなった。グリーンジャケットとクラレットジャグを手にしても「僕にとってはただただ恐れ多くて、本当に喜ばしいこと。今だって夢見心地だ」と謙そんが続く。それでも「いいチームに巡り合えれば、最高のことも起きるんじゃないだろうか」と仲間を誇った。
「2007年から本当に長い道のりだった」。月曜日にも関わらず3万5470人の観衆が詰めかけた1日遅れの最終日。ジョンソンは西日を浴びたクラレットジャグをいつまでも大切そうに抱きしめていた。(スコットランド・セントアンドリュース/桂川洋一)