2021年 全米プロゴルフ選手権

なだれ込むギャラリー「特別な瞬間」 50歳ミケルソンの初体験

2021/05/24 10:52
警備員に保護され、大観衆の中から抜け出した(撮影/田邉安啓)

◇メジャー第4戦◇全米プロゴルフ選手権 最終日(23日)◇キアワアイランドゴルフリゾート・オーシャンコース (サウスカロライナ州)◇7876yd(パー72)

お決まりのサムアップで声援に応えながら、フィル・ミケルソンはサングラス越しの表情を崩さなかった。2打のリードを持って迎えた最終18番、ティショットを大きく曲げた後の左ラフからの第2打。9Iでグリーンをキャッチすると、確信めいて左手の拳を3回振った。

フェアウェイに大ギャラリーがなだれ込む。ジャック・ニクラス、タイガー・ウッズ…現代ゴルフのレジェンドたちは見る者の感情を爆発させる。ミケルソンもまた、そうだった。もみくちゃにされかけたところを警備員に守られながらグリーンへ。「あんな経験は今までなかった。興奮と熱狂を目にして、あの最前線にいたことは特別だった。あの瞬間はこれからずっと大切にしたい」。最後は両手を天高く掲げ、歴史的な時間に身をゆだねた。

2013年「全英オープン」以来のメジャー通算6勝目、最年長となる50歳11カ月7日でのメジャー制覇への期待は出だしでしぼみかけた。首位で出た1番でボギーをたたき、バーディのケプカにいきなりひっくり返され、2番のバーディで再びトップに立つ、あわただしいスタートになった。

前日までと違う南西からの風で、スコアを伸ばす計算のできるホールが変わり戦況は混沌とした。ミケルソンは5番(パー3)、バンカーからのチップインバーディで味方のファンをさらに増やし、バックナインで1つスコアを落としながら「73」でまとめ通算6アンダー。ケプカとルイ・ウーストハイゼン(南アフリカ)の最後の追い上げをかわした。

50歳でワナメーカートロフィーを持つ(撮影/田邉安啓)

2015年にオーストラリア人コーチのアンドリュー・ゲットソン氏を迎え、17年には実弟のティムさんをキャディに据えた。新しいチームで、18年には「WGCメキシコ選手権」で世界選手権シリーズでの最年長優勝記録(47歳8カ月16日)を樹立。そしてきょう、シニア選手として史上初めてメジャーを獲った。

「僕は『できる』と信じてきたけれど、周りの全てがそうではなかった。誰かが何かを感じてくれることを望んでいる。体力か技術を維持するためには、ほんの少し多く仕事に励んで、懸命になる努力が必要かもしれないが、最終的にはそこに価値がある」

4大メジャーで唯一勝ち星のない6月の「全米オープン」は今年、世界ランキング上位者などの資格を確保できず、主催者の特別推薦により出場権を得ていた。今大会の優勝でその配慮はいらなくなり、向こう5年間の4大メジャーへのチケットを自分の手でもぎ取った。

「現実的に言えば、これが最後の優勝になる可能性もあるだろう。でもこれでちょっと集中力が増して活躍する可能性だってあるよ」。今年の「全米オープン」の会場は、故郷サンディエゴのトーリーパインズGCサウスコース。キャリアグランドスラムへの期待は夢物語でなくなった。(サウスカロライナ州キアワアイランド/桂川洋一)

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