松山英樹 今平周吾 石川遼 東京五輪代表争いの行方
2020年東京五輪のゴルフ競技は、埼玉・霞ヶ関CCで女子に先駆けて7月30日に男子が開幕する。世界ランキングをもとにした独自の五輪ランキングで決定する出場権争いで、日本勢は2枠が現実的。松山英樹(世界ランク21位)、今平周吾(同31位)のふたりを、3番手の石川遼(同80位)以下の選手が“大逆転”の可能性を求めて追いかける。ランキングポイントの配分に差がある海外ツアーと日本ツアーをまたにかけた戦いは、代表決定の6月23日に終結。レースを引っ張る3人の近況をまとめた。
■松山英樹
「僕は“非国民”になるんですかね」。4年前の初夏、松山英樹が練習中につぶやいた。112年ぶりにゴルフが正式競技に復帰した「リオデジャネイロ五輪」を欠場。当時、主戦場の米ツアーでは現地の治安や感染症を懸念して出場を辞退する選手が続出した。日本のナンバーワンプレーヤーもまた苦渋の決断でブラジル行きを回避した。周囲の期待を裏切る決断。後ろめたい気持ち抱えた時間を経て、松山は満を持して東京五輪を目指す。
日本勢のトップを走ってすでに6年が経過し、2019年末の世界ランキングは21位。1月第2週「ソニーオープンinハワイ」から米ツアーでの戦いを再開する。2020年のトピックスは五輪に違いないが、「オリンピックのことはまだ考えられない」というのが心境だ。キャリア最大の目標にしてきた4大メジャーがその前に並び、3シーズンぶりのツアー優勝に向けて必死なところ。「とにかく“勝つこと”を目標に頑張りたい」と復調を期す。
会場の霞ヶ関CCは、松山にとっての「はじまりの場所」のひとつでもある。東北福祉大1年生だった2010年の秋。当地での「アジアパシフィックアマチュア選手権」で優勝し、翌年の「マスターズ」出場権を手にした。大会の数週間前までは待機選手で、実は直前まで不調にあえいでいた。「翌週の『日本オープン』に向けて良い準備ができたらいいなと思っていた」という状態が劇的に変わったコースが舞台になる。
■今平周吾
日本ツアーで2年連続の賞金王に輝き、世界ランキングは1年前の53位から31位に浮上した。2019年は安定感に磨きをかけ、国内で予選落ちは一度もなし。昨年は主催者推薦で出場した「マスターズ」にも、今年は世界ランク50位以内の資格で参戦する。
「ソニーオープンinハワイ」で新シーズンに入り、2週後の欧州ツアー「オメガドバイデザートクラシック」もプレーする。以降は予選落ちのない世界選手権シリーズ「WGCメキシコ選手権」、「WGCデルテクノロジーズマッチプレー」にもエントリーする予定。世界ランク50位の“名刺”は、世界中のあらゆるトーナメントから手放しで迎えられる通行手形でもある。米ツアーを主戦場にする松山とは違い、調子やコースとの相性を見極めながら、自由にスケジュールづくりができるのが、現在の今平の強み。「試合に出ずに」、世界ランクポイントを減らさず、上位をキープできるアドバンテージが日本勢で誰よりもある。
埼玉県日高市出身で、霞ヶ関CCは実家から車で約15分という好立地にあり、これ以上ないホームゲームになりそうだ。「ジュニアのとき、たまにプライベートでも行かせもらった」。コース改修後は18年春に事前ラウンドもした。「フラットに思えたグリーンも改造でアンジュレーションが強くなり、バンカーも増えて海外のような雰囲気になった」と印象を語る。
■石川遼
「首の皮一枚つながった」。12月の昨季最終戦「日本シリーズJTカップ」で優勝した直後、石川遼はオリンピック出場について、そう口にした。年末の世界ランクは80位。現状では“圏外”の日本勢3番手にいる。今平と同じ埼玉県出身。敷居が高いとはいえ、霞ヶ関CCはトップジュニアにとっては無縁のコースではない。
2019年シーズン3勝で五輪切符に可能性をつないだといっても、日本勢2番手の座はまだ手の届くところとは言えない。松山と今平の差よりも、今平と石川の差のほうが大きいのである。ランキングを決める今平の世界ランク平均ポイントは3.0541(トータルポイント158.71を出場52試合で割った数)、石川は1.7604(同80.98を出場46試合で割った数)。仮に、優勝者に16ptが付与される通常の日本ツアーの大会が目の前にあったとして、単純計算で石川が4連勝、今平がその間獲得ポイントなしでも逆転がない。
「(今平)周吾がランキングを大きく落とすことは考えにくい」と、石川は言う。今平をとらえるためには、まず国内ツアーが本格的にはじまる4月までの海外ツアーでの戦いぶりが重要になる。春以降はポイント配分が最大になるメジャー大会、5月の「全米プロ」と6月「全米オープン」での上位進出も欠かせない。もちろん、ランク106位の星野陸也、133位堀川未来夢あたりにも、同じ大逆転のシナリオの望みがないとは言えない。だが、石川のランキングは半年前、19年6月末に300位だった。まだ、奇跡につながる道の途中にいるのだろうか。