空飛ぶティマーク/初めての「ZOZOチャンピオンシップ」後記 その(2)
2019年10月、世界最高峰のゴルフツアーであるPGAツアーが初めて日本で開催された。タイガー・ウッズの通算82勝目で華々しく閉幕した「ZOZOチャンピオンシップ」。ただ、光浴びるところには陰がある。初回大会の成功の裏には数多くの苦労があった。日本側のトーナメントディレクター(大会事務局長)を務めた株式会社ZOZOの畠山恩(はたけやま・めぐみ)さんと激動の時間を振り返る大会後記。第2回は世の中のファッションのけん引役としてデザインの細部までこだわるZOZOと、ツアーとの“てんやわんや”にフォーカスする。
■“円”が示すZOZOの精神
ウッズがPGAツアーの最多勝利数に並ぶ82勝目の証しとして掲げたトロフィーは、バラエティー豊かな世界中の優勝杯に引けを取らないものだ。3つあったプロトタイプからチョイスしたのは、もちろんZOZOの前澤友作前社長。大会を約3カ月後に控えた夏場のことだった。同社には「Be unique. Be equal.(みんな違うけど、みんな一緒)」というスローガンがある。世界中のすべての尊い個性がファッションでつながる未来を目指し、サービス拡充に取り組んできた。
トロフィーの多彩な輝きは選手たちの輝く個性、円弧の形は選手たちの力強いスイングをイメージしている。円形はEQUALITY(平等)の象徴でもある。よ~く見ると、実は曲線はつながっていないのだが、鮮やかな色彩を生み出しているのは、日本伝統の玉虫厨子(たまむしのずし)の技法。職人の手によって張り付けられた玉虫の装飾は、法隆寺に所蔵される飛鳥時代の国宝と同様の手法による。
完成したのは大会が行われていた週だという。スケジュールの範囲でギリギリまでこだわり、思いの詰まった品が史上最高・最強のゴルファーの手に渡ったのである。
■宙に浮いた?ティマーク
年間812万人の購入者を抱えるZOZOTOWNのウェブサイトなどのデザインのほとんどは、千葉・幕張のZOZOオフィスで働くスタッフが発信する。普段はもちろんファッションが主戦場だが、今大会では場内のテントやスタンド、ホームページやパンフレットのデザイン展開を主導した。文字フォント、ピクトグラムも細部までこだわるのが、やり方だ。
連載初回で触れた通り、畠山さんは今年4月まで所属したサマンサタバサジャパンリミテッドで国内女子ツアー「サマンサタバサ レディース」の大会事務局長を務め、5月にZOZOに移籍した。「PGAツアー、ZOZOの世界観を出すことにおいては社内のデザイナーに感謝しかありません。最後まで私のわがままにも、付き合ってくれました」という。
互いの労をねぎらうまでには、衝突もあった。ゴルフ、プロツアーの常識と、デザイナーの豊かな発想はときにぶつかった。「私にはゴルフの固定概念があって。でも彼らにはそれがない」。“常識”のすり合わせは「楽しくもありました」
会場やテレビで、ティイングエリアを見た人は「おや?」と思ったかもしれない。第1打を放つ場所を示すティマークは、ZOZOTOWNで商品を購入した際に配送される同社の黒い段ボール箱をミニチュア化したものだ。しかも、地面に置くのではなく、透明なピンズ(足)を使って「浮いているように見える」ようにした。
「デザイナーからは『畠山さん、クルクル回るティマークはダメなの?』って聞かれたり…。『楽しいと思うけど、選手が打つときに気になるから』とNGにしましたけど、彼らはホントに浮かせたかったんです。どうやって?磁石のN極とN極を合わせるようにしたりして…。ただそれも、風が吹いたらどこかに飛んで行ってしまうんじゃないかと思ってNG!(笑)」。2020年大会では、さらに斬新なアイデアが披露されるかもしれない。
■キッズボード完成は開幕直前
日本で初のPGAツアーでは、スタートホールのアナウンサーにバイリンガルを起用した。ラジオDJ、プロバスケットボール・Bリーグなどでも活躍している面々。日曜日はタレントのケイン・コスギさんが国内外の選手を紹介した。「プロゴルフはファンの方に見せるもの。エンターテインメント性にもこだわった」という。
大会開催までに何度か米国に渡り、現地視察で得たアイデアもすぐに形にした。子どもたちだけが選手を近くで見たり、サインをもらえたりするキッズコーナーを練習場脇のエリアに設置。「入れるのは身長130㎝まで」を分かりやすく示すため、選手が手を挙げた等身大パネルを用意した。
3月にフロリダの「ザ・プレーヤーズ」で目にしたものを、そのまま採用した。「すごくかわいくて。PGAプレーヤーに親近感を持ってもらえるものを取り入れたかった」。松山英樹、トミー・フリートウッド、ジェイソン・デイ、マシュー・ウルフに協力を得たが、彼らの写真が集まったのはZOZO開幕前週の韓国「ザ・CJカップ」のとき。滑り込みで本番に間に合った。(編集部・桂川洋一)
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