「挑戦と無謀のあいだ」 Haleiwa, HI
アリューシャン沖で発達した低気圧によるうねりは、冬のハワイ沿岸に大波を運んでくる。オアフ島北部ノースショア一帯は、世界中からそんなビッグウェーブを乗りこなそうという猛者たちが集まってくるサーフィンの聖地。ワイキキからは車でわずか1時間の距離にある。実物を見てみたい!という衝動に駆られ、まだ太陽も顔を出さない土曜日の早朝に、眠い目をこすりながら北へ向かった。
(これは取材で世界を旅するゴルフ記者の道中記である)
ポイントに近づくと、道路脇はびっしりと車で埋まり、海面を見下ろせる高台には無数のカメラマンが群がっていた。ふと見ると、道路脇の電柱に「Missing」という文字とともに若くたくましい上半身裸の男の顔写真が貼られている。海から帰ってこないサーファーに違いない。その横をサーフボードを抱えた男が颯爽と歩いていく。「命知らず」…という言葉が浮かんだが、不吉な気がして反射的にすぐ打ち消した。
ワイメアベイの駐車場に運良く車を停められた。ビーチには多くの見物人たちが海を向いてピクニックするように陣取っている。波打ち際には遊泳禁止の立て札と立入禁止を示す黄色いテープ。その目と鼻の先で、大波が白い飛沫をあげて壮大に崩れていた。
砂浜には監視台があって、ライフセーバーたちの動きはせわしない。沖に出ていこうと奮闘するサーファーに向かって、「あと2つ3つやり過ごしたら波は落ち着く。もう少しそこで頑張れ!」と拡声器で叫んでいる。目指す沖では数十人のサーファーが大波に揺られて上下していて、周囲を水上バイクに救助ボートを括りつけたライフセーバーが巡回していた。
サーファーが挑む波は背丈の何倍もあるし、そこにたどり着くには崩れてくる波を幾度もやり過ごさなければならなかった。海面の下には岩礁があり、波に巻かれたら怪我や命の危険もある。それでも一人また一人と海に出ていく…。こんな海に入ろうというサーファーは、みんな英雄のように感じられた。
とてつもない大波に、技術と体力、勇気を駆使して挑んでいくサーファーと、その安全を守ろうとするライフセーバー、さらにその挑戦を見守って称えようという人々がいる。そこには賞金も入場料も存在せず、ただ人類の純粋なチャレンジ精神が表現されているようだった。そんな光景を眺めながら、なにかに駆り立てられるように胸の鼓動が速まっていた。
ノースショアからゴルフ場へと戻る車中で、我が身のことを振り返った。妙に気後れして正面から向き合えなかったあの子に、きょうは絶対に話し掛けよう。あぁ、そういえば尻込みして質問を飲み込んだこともあったなぁ。あの大波に比べれば、ちょっと怖い“あの男”も可愛いものだ。なんて、やっぱり最後は勇気が必要になるのだけど…。それでも、日々多少のストレスを感じていた仕事場がとても平和な世界に思えたのは、この小さな旅の収穫だった。(編集部・今岡涼太)