米国女子ツアー

待望の景色 2023年ベストショット3選【高藪望】

2023/12/25 14:00

鮮やかな緑が包むゴルフコースに、さまざまなアクセントを添える光と影。2023年はコロナ禍を象徴するマスクが口元から減り、人々の笑顔が映える日常も戻った。それら数々の要素に神経を研ぎ澄ませ、一瞬を切り取ることに全てをかけるフォトグラファーたち。GDOとともに国内外を渡り歩いたプロフェッショナルが選んだ今年の3枚。第2回は高藪望カメラマン編。

<ASO飯塚チャレンジドゴルフトーナメント 最終日 中島啓太>

このガッツポーズは、今年見たたくさんの試合の中で一番熱いものを感じた。中島啓太金谷拓実と3週連続、最終組でのプレーだった。2週連続で2位にとどまり、優勝にあともう少しのところで届かない。ましてや、前週の「日本ゴルフツアー選手権」ではアマチュア時代から切磋琢磨してきた2学年上の金谷が完全優勝。ここまでの3日間も、金谷は首位に立っていた。

いつも目の前に立ちはだかる『金谷拓実』という大きな存在。中島は3打差から猛チャージし、一時はトーナメントリーダーに。絶対に勝ちたい。プレーからもひしひしと気持ちが伝わってくる。しかし、17番で痛恨のボギー。バーディを奪った金谷に再びリードを許した。残るは1ホール。金谷の2週連続優勝が頭をよぎる。しかし、中島は最後まで決して諦めなかった。18番で約3mのバーディパットをねじ込んで力強くこぶしを振り下ろし、金谷とのプレーオフにもつれ込む。2ホール目に制し、3度目の正直で念願のプロ初優勝を果たした。

優勝した中島に、金谷はハグをして「おめでとう」とささやいた。二人の熱い戦いに心が震えた一日だった。この写真は今年の賞金王、そして最後まで諦めなかった男、中島啓太を象徴する一枚だと思う。

<全米女子オープン 最終日 畑岡奈紗>

今年は、私にとって大きな挑戦の年だった。海外で初めての撮影。それが、名門と言われるペブルビーチゴルフリンクスで本当に良かったと思っている。なぜなら、景観が美しすぎたから。

ターコイズブルーの海が一面に広がる。ビーチでは、バカンスを楽しむ人たちがのんびりと過ごしている。コースには鹿やキツツキ、アザラシ、ラッコ、アライグマなどさまざまな動物達も。自然のだいご味を、これでもかと感じるコース。そんな美しい背景で繰り広げられる、世界中の女子ゴルファー達の戦い。実は、練習日も含めて7日間の撮影で晴れたのはたったの2日間だった。カメラマンにとって、太陽が出るか出ないかは写真のクオリティー、撮影のモチベーションに関わる大きな問題だ。曇りの日は曇りの日の写真の良さもあるが、きっとどのゴルフカメラマンも晴天にはかなわないと思っているのではないだろうか。

決勝ラウンドは天気に恵まれた。光が差すことで、海の青色はキラキラと美しく輝き、ゴルファーのシルエットも輪郭がくっきりと映え、海とゴルファーのコントラストが“ペブルビーチらしい”一枚を撮影できた。写真の主人公が、最終日に最終組をラウンドする畑岡奈紗だったから、さらにシャッターを押す人差し指にも気持ちがこもる。畑岡は勝利を逸したが、きっと近い将来、優勝カップと一緒の写真を撮影できる日が来ると信じてやまない。

<NOBUTA GROUP マスターズGCレディース 2日目 イ・ボミ>

どんな業界にも、スターと言われる人がいる。無数に輝く星の中でも、ひときわ強い光を放つ存在。ゴルフ界にも圧倒的な強さと笑顔でたくさんの人を虜(とりこ)にしたプロがいた。「マスターズGCレディース」2日目。この日がイ・ボミにとって、日本におけるトーナメント人生最後の一日となった。

近年は成績に恵まれず、試合の中で彼女の笑顔を見る機会は少なかったと思う。そんな中で決めた、ホステスプロとして迎える引退試合。初日からたくさんのファンが押しかけ、イメージカラーであるピンクのTシャツやグッズを身につけた人達で会場が華やいだ。彼女がどれだけ、日本のファンに愛されたプロだったのかを改めて実感した。そして、撮影していて彼女の笑顔の多さに驚いた。初日は成績が振るわなかったが、そんな時でも笑顔を絶やさなかった。きっと最後の試合で見せた笑顔は、ファンのみんなに“魅せる”笑顔だったのではないだろうか。みんなボミちゃんの笑顔が見たい。ファンでなくても、彼女の笑顔はひきつけられる、不思議な魅力がある。

2日目の18番で最後のパッティングを打ち終えた後、ほっと安心するかのような愛くるしい笑みがあふれた。会場は彼女への歓声で埋め尽くされ、温かく優しい雰囲気に包まれた特別な瞬間だった。