<安易な“当て字”はいけないと思いつつ・・・谷口徹の強さを表す最も端的な一語とは>
もうずいぶん前に、明石家さんまさんがバラエティ番組で話していたことだが、「芸人は、結婚すると面白くなくなる」。そのココロは確か、家族を持って、子どもが出来るとどうしても世間体が気になって、パワーが激減するという、そんなふうな“ご持論”だったと思う。
自分の捨て身の芸が、学校で子どもがいじめられるきっかけになったらとか思うと怖くて自然と守りの姿勢に入ってしまう。それは芸人としてのタブーでもありだから僕は結婚しないというようなお話だったと思う。
プロゴルファーは、もちろん芸人さんではないからそんな心配とは無縁なはずなのだが、あのときのさんまさんの言葉をふいに思い出したのが、昨年末だった。あるトーナメントで元阪神タイガースの桧山進次郎さんとプロアマ戦を回った谷口徹が報道陣に囲まれた際に言ったのだ。
「みなさん、僕のことを書くときに、絶好調の“好”の部分を“口”と書くの。あれ、やめてもらえませんかね?」。とにかく弁が立ち、時に歯に衣着せぬ物言いが、とかく話題になる選手の記事には確かによく「絶“口”調」とか、また「“舌”好調」などといった、口にまつわる当て字の見出しが躍ることが多かった。
本人はさして気にしてはいなかったようだが、ここらでそろそろナーバスにならざるをえなくなってきたのが、ほかでもない、こんな我が子の言葉だった。長女の菜々子ちゃんがある日、パパの話題が載っていた新聞を読んで、心配そうに言ったそうである。「パパは、いじめられているの?」。愛娘も8歳。
そろそろ、大人の風刺も理解しはじめるお年頃。パパの記事に間違った漢字が使われているのはなぜ・・・!? 菜々子ちゃんの胸中のそんな葛藤を思えば、父親でなくともハっとさせられるというものだ。
もっとも、谷口が報道陣にそう訴えたのは照れ隠しもあった。というのも、その直前に桧山さんが谷口をべた褒め。「プロの中でも一流選手。そんな方とラウンド出来たことは、本当に良い宝物です」。ともすれば強気な発言やプレースタイルばかりが取りざたされる選手ではあるが、もともとプロアマ戦での親切丁寧なレッスンには以前から定評があった。
さらに「ご一緒して分かったのですが、なんといっても谷口さんには品があります」という桧山さんの言葉も、谷口の真摯な指導ぶりから自然と出たものだろうが本人は、「世間では、そんなこと言われたこともないのに」と顔を真っ赤にしたあとについこぼれ出た、先の“菜々子ちゃん発言”だったのだ。
桧山さんが言ってくださったことへの照れ臭さを笑いに変えてしまおうとは、さすが生粋の関西人だが、菜々子ちゃんのけなげな思いを理解して欲しいとの意図もそこには大いにあっただろう。
プロゴルファーにも当然、それを支える家族の存在がある。表現する側も、その辺まで配慮してかからなければならないと、思い知らされた一件だった。と同時に、それでもなお谷口選手には、やっぱりいつまでも絶“口”調であって欲しい。さんまさんが今もお笑い界のトップに君臨し続けるのと同じように、それが谷口徹というベテラン選手を支える強さの源そのものでもあると思うからだ。